体外受精

2025.10.08

vanishing twinが凍結融解胚移植における単胎出生転帰に及ぼす影響(Fertil Steril. 2025)

はじめに

ART出生児は、単胎妊娠であっても自然妊娠と比較して低出生体重、早産、SGA児などの有害新生児予後のリスクが高いことが知られています。妊娠初期の超音波検査の普及により、すべての単胎出生が単胎妊娠から生じるわけではないことが明らかになりました。vanishing twin(VTS)は、自然妊娠よりもARTにより妊娠した女性により多く認められます。今回、凍結融解胚移植周期におけるVTSが単胎出生の新生児予後に与える影響を調査した研究をご紹介いたします。

ポイント

VTS群の単胎出生児は、非VTS単胎群と比較して早産および低出生体重のリスクが増加する可能性があります。

引用文献

Tingting He, et al. Fertil Steril. 2025 Sep;124(3):506-513.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.05.146.

論文内容

凍結融解胚移植(FET)周期におけるvanishing twin(VTS)と単胎出生の出生予後との関連を調査することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。2015年1月から2022年6月にFET周期により妊娠24週以降の単胎出生児を得た14,583名の女性を対象としました。VTSは妊娠初期の超音波検査で2つの妊娠嚢が確認され、その後妊娠14週までに一方の双胎が消失した場合と定義されました。対象者はVTS群(n=1,078)と非VTS単胎群(n=13,505)に分類され、VTS群の女性を非VTS単胎群と1:3の比率で傾向スコアマッチングを行いました。主要評価項目は早産(37週未満での分娩)および低出生体重(2,500g未満)でした。除外基準には卵子提供周期、PGT周期、減胎術実施周期、14週以降の胎児死亡、異所性妊娠の合併、妊娠初期の超音波記録なし、子宮異常、子宮内膜厚8.0mm未満が含まれました。

結果

傾向スコアマッチング後、VTS群では早産の発生率が12.43%(非VTS群:8.50%)で、RR 1.53(95%CI:1.23-1.91)と高値でした。低出生体重の発生率はVTS群で8.07%(非VTS群:4.75%)であり、RR 1.76(95%CI:1.34-2.32)と高値でした。在胎週数はVTS群で38.67±2.17週、非VTS群で38.96±1.70週であり、平均差-0.29週(95%CI:-0.44~-0.15)と短縮していました。出生体重はVTS群で3,273.10±608.15g、非VTS群で3,364.22±520.62gであり、平均差-91.12g(95%CI:-131.75~-50.49)と軽量でした。一方、帝王切開率(76.72% vs 76.01%)、SGA児の発生率(6.03% vs 5.48%)に関しては統計学的有意差は認められませんでした。層別解析では、母体年齢、BMI、不妊期間、子宮内膜厚、不妊タイプ、不妊原因、受精方法、内膜調整法、受精胚状態、ゴナドトロピン投与量、基礎FSH値、採卵数、初回超音波妊娠週数、胞状卵胞数、妊娠歴、分娩歴のすべてのサブグループでVTSによる早産および低出生体重のリスク増加が認められました。これらの結果は傾向スコアマッチング前後および二個胚移植に限定した場合でも一貫して安定していました。

私見

VTSと新生児予後に関する先行研究の結果はさまざまです。 

VTSリスクを支持する研究:

  • Magnus MC, et al. Hum Reprod. 2017 
    127,597例の単胎妊娠の大規模後ろ向き研究で、VTSが早産リスクの増加と関連 
  • Seong JS, et al. PLoS One. 2020およびKamath MS, et al. Hum Reprod. 2018 
    VTSが早産の独立危険因子 
  • Guo Y, et al. J Perinat Med. 2020 
    177例のVTS妊娠で低出生体重のリスクが高い(10.73% vs 3.67%)

VTSリスクを否定する研究:

  • Harris AL, et al. Obstet Gynecol. 2020 
    ART単胎妊娠と比較してVTS群で早産リスクの増加は認めず(18% vs 19%) 
  • Romanski PA, et al. Obstet Gynecol. 2018 
    早産率に差なし(OR 1.18, 95%CI 0.67-2.06)

VTS発生後の胚死亡により、サイトカインやプロスタグランジンが放出され、炎症反応が惹起されます。Mansour R, et al. Fertil Steril. 2010では、これらの炎症性メディエーターの放出と壊死組織の吸収が相まって、早産や低出生体重などの有害妊娠転帰のリスク上昇に寄与する可能性を報告しています。VTS患者に対して、単胎になったとしても高度周産期施設での管理が必要と感じる報告でした。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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