体外受精

2025.10.21

黄体補充優先排卵凍結融解胚移植における出生率(Human Reproduction Open. 2025)

はじめに

従来のホルモン調整周期(HRT)では排卵を抑制するため、妊娠高血圧症候群リスク増加などが懸念されています。自然排卵周期に排卵前に経口ジドロゲステロン(DYD)を用いて着床ウィンドウを調整し、自然排卵を保持する新しい「プログラム排卵型FET(PO-FET)」プロトコールにおける胚移植日のホルモン値と出生率の関連性を検討した多施設前向きコホート研究をご紹介いたします。

ポイント

PO-FETプロトコールでは、胚移植日のDYD、DHD、プロゲステロン、エストラジオール値は出生率と一貫した関連性を示さず、ホルモン測定の必要性が低い可能性があります。

引用文献

Eggersmann TK, et al. Hum Reprod Open. 2025. doi: 10.1093/hropen/hoaf058.

論文内容

自然排卵周期において経口ジドロゲステロン(DYD)10mg 1日3回を卵胞後期に開始して子宮内膜の受容性を誘導し、凍結融解胚移植のスケジューリングを行う際の、胚移植日の排卵を示すプロゲステロン値への影響、および胚移植日のDYD、20α-ジヒドロジドロゲステロン(DHD)、プロゲステロン(P)、エストラジオール(E2)値と臨床結果との関連性を検討することを目的とした多施設前向きコホート研究です。2021年12月から2023年8月に自然排卵周期で凍結融解胚移植を受けた正常周期の女性559名を対象に、高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(HPLC/MS/MS)またはRoche Elecsys免疫測定法(ELISA)により胚移植日にDYD、DHD、P、E2値を測定しました。
周期10日目から女性は内分泌検査(E2、LH、P)と超音波モニタリングを受け、主席卵胞が理想的に≥16mm、子宮内膜厚≥6mm、E2≥180pg/mlの基準を満たした時点で経口DYD 10mg(1日3回)を開始しました。血清LHの上昇がない場合、患者や施設の都合(週末を避けるなど)に合わせて2日以内に開始を延期することができました。day 2からday 5胚の凍結融解胚移植は、DYD開始3日目から6日目に実施されました。

結果

対象患者559名の平均年齢は34歳、体重70kg、73%が規則的な月経周期を有していました。DYD開始前の最終モニタリング時の平均卵胞径は17.2mm(±2.2)、子宮内膜厚は9.2mm(±2.1)、LH値は19.2 IU/L(±20.2)でした。胚移植はday 2、3、4、5でそれぞれ4.6%、12.7%、3.4%、79.2%に実施され、86%で単一胚移植が行われました。臨床妊娠率は32.6%(95%CI 28.73-36.51%)、出生率は27.1%(95%CI 23.37-30.75%)でした。Day 4または5胚の凍結融解胚移植において、血清プロゲステロン値は98.1%(>1.5ng/ml)および95.4%(>3.0ng/ml)の症例で排卵を示し、値はday 2または3胚の凍結融解胚移植よりも高値でした(幾何平均比 2.88、95%CI 2.48-3.35)。胚移植日のプロゲステロン値は卵胞サイズ(≤16mm vs >16mm)とは関連せず(幾何平均比 1.13、95%CI 0.95-1.34)、DYD開始前の最終モニタリング日の血清LH値≥12.6 IU/L vs <12.6 IU/Lでわずかに高値でした(幾何平均比 1.36、95%CI 1.19-1.56)。
凍結融解胚移植のタイミング(day 2/3 vs 4/5胚)で層別化して解析した場合、低値(≤25パーセンタイル)と正常高値(>25パーセンタイル)のホルモン値を有する患者間の出生率のリスク差は統計学的に有意ではありませんでした。これらの知見はロジスティック回帰により、評価されたホルモンの出生率への相互作用効果は未調整有意水準0.05では認められませんでした。

私見

今回のPO-FET(Programmed Ovulatory FET)、Kornilov et al., 2024が提唱したP4mNC(Progesterone-modified Natural Cycle)、Mendes Godinho et al., 2024が提唱したNPP(Natural Proliferative Phase)プロトコルも同様の方法です。まだ呼称が定まっていません。
今回の検討では、主席卵胞が理想的に≥16mm、子宮内膜厚≥6mm、E2≥180pg/mlの基準を満たした時点で経口DYD 10mg(1日3回)を開始したにもかかわらず、2-5%の患者で排卵を示すプロゲステロン値が検出されなかったことは注目すべき点です。プロゲステロン投与は低用量でも下垂体への負のフィードバックにより排卵に影響を与える可能性があります。これらの変法として救済的トリガー投与の有効性を調べるのが今後のトピックスとなってきそうです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 黄体補充

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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