体外受精

2025.12.03

非モザイク型異数性胚移植後に健康な正常二卵性双胎児が出生(Fertil Steril. 2025)

はじめに

近年、PGT-Aで異数性やモザイク型と判定された胚からも正常出産例が報告されており、栄養外胚葉生検による検査限界が指摘されています。今回、次世代シークエンス法(NGS)によるPGT-Aで非モザイク型異数性と判定された女児胚3個を移植し、正常な二卵性双胎女児を出産した世界初の症例をご紹介します。

ポイント

PGT-Aで複数の染色体モノソミーを有する非モザイク型異数性と判定された3個の女児胚移植後に、健常な正倍数性二卵性双胎が出生し、現在7歳で正常発育を示している症例です。

引用文献

Christina G. Tise, et al. Fertil Steril. 2025;124:1016-23. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.06.033.

論文内容

42歳女性(G7P5)と49歳男性パートナーが、PGT-Aを用いた体外受精を希望されました。
1回目採卵で正倍数性男児胚1個(5AB 46,XY)を獲得し、2回目の採卵で以下の非モザイク型異数性女児胚3個を得ました:

①5AB XX-モノソミー5、モノソミー18
②4CC XX-モノソミー11p
③4CC XX-モノソミー7、モノソミー9、モノソミー18

当時のクリニック方針により、正倍数性胚が不足している場合の異数性胚移植が認められており、遺伝カウンセリング、30日間の待機期間、内部倫理委員会での検討を経て、夫婦は男児胚1個と女児異数性胚3個すべての移植に同意されました。

結果

4胚移植後、二絨毛膜二羊膜双胎妊娠が成立しました。双胎妊娠のためNIPTは実施されず、妊娠リスクと妊娠継続希望のため羊水検査は拒否されました。妊娠36週2日に前期破水後、経腟分娩で双胎女児が出生しました(体重:双胎A 2.7kg、双胎B 2.3kg)。
両児とも出生後末梢血染色体検査および染色体マイクロアレイ検査で正常女性染色体(46,XX、arr(1-22,X)x2)が確認されました。染色体マイクロアレイのコピー数変化と一塩基多型(SNP)パターンの比較により、双胎は二卵性であることが示唆されました。現在約7歳で両児とも健康であり、発達上の問題はありません(双胎Aは身長・体重とも80パーセンタイル、双胎Bは30-40パーセンタイル)。

私見

この症例は非モザイク型異数性胚移植後の健常二卵性双胎出産として世界初の報告となります。SNPパターン解析により、二卵性双胎は異数性と判定された女児胚のうち2個から発生したと推定されています。興味深いことに、少なくとも1個は4CC胚(比較的低グレード、通常の出生率約13%)から発生しており、胚の形態学的評価とPGT-A結果の両方が実際の発育能力を過小評価していた可能性があります。
PGT-Aは胚盤胞期の栄養外胚葉から3-7個の細胞を採取して検査を行いますが、この部位は将来胎盤となる組織であり、胎児となる内細胞塊とは異なる細胞系統です。胚性自己修復機能により異常細胞が排除される機構(M. Yang, et al. Nat Cell Biol, 2021)、全ゲノム増幅時のallele dropout(ADO)やloss of heterozygosity(LOH)(R.F. Casper, et al. J Assist Reprod Genet, 2023)、胚盤胞へのunequal blastomere contribution(S. Junyent, et al. Cell, 2024)などが、PGT-A結果と実際の胎児染色体構成の乖離を説明する可能性があります。
Gleicher et al.が2015年に異数性胚移植後の正常出産を初めて報告し(N. Gleicher, et al. Fertil Steril, 2015)、その後Greco et al.がモザイク胚移植18例中6例で健常児出産を報告しました(E. Greco, et al. N Engl J Med, 2015)。Viotti et al.は1,000例のモザイク胚移植コホートで19-44%の出生率を報告し(M. Viotti, et al. Fertil Steril, 2021)、2023年には2,031例のモザイク胚移植分析で488例の出産において、出生児の発達は正倍数性胚移植児と同様であることを報告しています(M. Viotti, et al. Fertil Steril, 2023)。
Cascante et al.の再生検研究では、完全異数性胚の5%、分節モザイク胚の65%が再検査で正倍数性と判定されることを示しており(S.D. Cascante, et al. Fertil Steril, 2023)、PGT-Aの技術的限界を明確に示しています。ただし、2例の確定的胎児モザイクを伴う超音波異常例ではterminationが選択されており(E. Greco, et al. Hum Reprod, 2023)、すべての症例で良好な転帰が得られるわけではありません。
現在動いているスタンフォード大学では患者主導のTAME(Transfer of Aneuploid and Mosaic Embryo)研究の結果、待ち遠しい限りです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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