体外受精

2020.09.02

絨毛膜下血腫はホルモン調整周期妊娠で発生しやすい?(Fertil Steril. 2020)

はじめに

不妊治療を行っていると妊娠初期の出血にとてもナーバスになります。その原因の一つに絨毛膜下血腫があります。 
絨毛膜下血腫は妊娠初期に4~48%と頻度高く認められる疾患です。発生機序としては子宮壁からの絨毛膜が部分的に剥離したことが考えられます。絨毛膜下血腫は自然流産、死産、胎盤剥離、前期破水と妊娠高血圧症候群との関連報告もあります。否定的な意見も多いですが、これらが周産期合併症に影響を与えることは十分に考えられますので、以前より発生頻度に関してしばしば議論されてきました。 
絨毛膜下血腫の発生頻度は①生殖補助技術妊娠が自然妊娠(人工授精やタイミング法)に比べて高い(Xiang Lら、2014)、②凍結融解胚移植妊娠が新鮮胚移植妊娠に比べて高い(Asato Kら、2014)とされてきました。今回の論文は新たに③ホルモン調整周期凍結融解胚移植が排卵周期凍結胚移植に比べて絨毛膜下血腫の発生頻度が高い可能性があるという報告になります。 

ポイント

ホルモン調整周期の凍結融解胚移植は排卵周期と比較して絨毛膜下血腫の発生率が高い可能性があります。血清エストロゲン値との関連は認められず、発生機序は不明です。絨毛膜下血腫自体は流産率に影響しないものの、周産期予後との関連が示唆されるため、注意深い観察が必要です。 

引用文献

Jenna Reich, et al. Fertil Steril. 2020 DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.04.040 

論文内容

凍結融解胚移植(正倍数性胚)のプロトコールが絨毛膜下血腫の発生率に及ぼす影響について調査したレトロスペクティブコホート研究です。ニューヨーク大学で2016年から2018年に凍結融解胚移植を受けた1,273例を対象としました。 

結果

絨毛膜下血腫の発生頻度は、排卵周期凍結融解胚移植の方がホルモン調整周期凍結融解胚移植に比べて低いという結果でした(P<0.05;相対リスク0.4 [0.27-0.78]; オッズ比0.4 [0.23-0.75])。 
研究者らは血清エストロゲン値が絨毛膜下血腫の発生率に影響するのではないかと仮説を立てていました。排卵周期凍結融解胚移植の方がホルモン調整周期凍結融解胚移植に比べてプロゲステロン補充開始日および28日目の血清エストロゲン値は高値でしたが、絨毛膜下血腫の形成とは関連していませんでした。 

私見

この報告は凍結融解胚移植のプロトコールが絨毛膜下血腫の発生率に影響するかどうかを調べた初めての研究です。絨毛膜下血腫の発生機序は原因が解明されていないことが多く、今後、絨毛膜下血腫に関連した研究がもっと進むべきだとされています。 
私たちは妊娠初期によく絨毛膜下血腫と遭遇するので、とても興味深い報告と感じています。この論文でも記載されていますが、流産率には影響しないと考えていますが、その後の周産期予後とは関連することも考えられますので、周産期施設への妊娠報告書には必ず記載するようにしています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 流産、死産

# 排卵周期下胚移植

# ホルモン調整周期下胚移植

# 周産期合併症

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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