
はじめに
PCOSや子宮内膜症などの炎症性疾患が不妊と関連することが知られ、抗炎症療法により妊娠成績が改善することが報告されています。食事性炎症指数(DII)は、食事全体の炎症促進能を評価する指標として開発され、CRP、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-10などの血中炎症マーカーと相関することが示されています。しかし、DIIと女性不妊の関連についてはまだ十分に解明されていません。今回、NHANES調査データを用いてDIIと女性不妊の関連を調査した横断研究をご紹介します。
ポイント
DII最高四分位群の女性は最低四分位群と比較して不妊リスクが71%増加し、特にDII > 2.4で不妊率が急激に上昇することが判明しました。
引用文献
Wang W, et al. Front Nutr. 2024 Sep 19;11:1391983. doi: 10.3389/fnut.2024.1391983.
論文内容
全米健康栄養調査(NHANES)のデータを用いてDIIと不妊の関連を調査することを目的としました。この横断研究では、3つのNHANES調査サイクル(2013-2018年)から20-44歳の女性3,071名のコホートを対象としました。DIIは24時間食事記録面接により収集された27の食品成分データから算出されました。高いDIIスコアほど炎症促進食を、低いスコアほど抗炎症食を示します。不妊は「1年以上避妊せずに妊娠を試みたが妊娠しなかった場合」または「妊娠できないために医療機関を受診した場合」への陽性回答により定義されました。DIIスコアと不妊の関連は、年齢、人種/民族、教育レベル、家族収入、BMI、月経規則性、骨盤内感染症、女性ホルモン使用歴、経口避妊薬使用歴、飲酒歴、喫煙歴を調整した多変量ロジスティック回帰分析により評価されました。
結果
参加者のうち354名(11.53%)の女性が不妊と特定されました。不妊女性の平均DIIスコアは2.01(95%CI: 1.80-2.21)で、対照群の1.73(95%CI: 1.59-1.87)と比較して有意に高値でした(P = 0.03)。すべての共変量で調整した結果、DII連続変数による正の相関が観察されました(OR = 1.09, 95% CI: 1.01-1.18)。DIIを四分位に分けた解析では、Q2群(OR = 1.51, 95% CI: 1.00-2.28, P = 0.05)、Q4群(OR = 1.71, 95% CI: 1.17-2.51, P < 0.001)で最低四分位(Q1)と比較して不妊リスクが有意に増加しました。
制限三次スプライン(RCS)モデルでは、DIIと不妊の関係がS字型曲線を示しました。DIIが2.4未満では不妊率の増加は比較的緩やかでしたが、DII > 2.4を超えると不妊率が急激に上昇することが判明しました。DIIの中央値を基準点とした場合、より高いDIIは不妊の有病率増加と明確に関連していました。サブグループ解析では、肥満患者において特に高い不妊リスクが認められ(OR = 1.16, 95% CI: 1.01-1.33)、年齢や人種/民族による有意な交互作用は認められませんでした。
DIIの構成要素を詳細に分析すると、不妊群では対照群と比較してビタミンA(0.22 vs. 0.20, P = 0.05)およびビタミンC(0.26 vs. 0.22, P = 0.04)の摂取が有意に多く、総飽和脂肪酸の摂取傾向に差が認められました(-0.07 vs. -0.10, P = 0.08)。これらの結果は、食事の全体的な炎症促進能が単一栄養素よりも重要であることを示唆しています。
私見
高DII食品には、ハンバーガー・フライドポテトなどのファストフード(DII +1.5~+2.0)、ソーセージ・ハム等の加工肉(DII +1.2~+1.8)、唐揚げ(DII +1.8)、炭酸飲料・菓子類(DII +0.8~+1.5)、菓子パン(DII +1.2)、カップラーメン(DII +2.0)、カツ丼(DII +1.5)などがあります。一方、低DII食品(推奨)には、サーモン・さば等の脂肪魚(DII -1.5~-2.0)、ブルーベリー・いちご等のベリー類(DII -1.2~-1.8)、ほうれん草・ブロッコリー等の緑黄色野菜(DII -1.0~-1.5)、ウコン・ショウガ等の香辛料(DII -2.0~-3.0)が含まれます。
同じ食材でも調理法により DIIが変化します。揚げ物(+0.5~+1.0)を焼き物・煮物・蒸し物(-0.2~-0.5)に変更、マヨネーズ・ソース類(DII +0.3~+0.8)をオリーブオイル・醤油ベース(DII -0.2~-0.5)に変更、白砂糖(DII +0.5)をはちみつ・メープルシロップ(DII -0.1~-0.3)に変更することで、調理法改善だけで1日DII-1.0~-1.5の改善効果が期待できます。
妊活をする際に、並行した食事療法の位置づけを確立していくことが今後の課題です。また、妊活期間中だけでなく、若年女性への食事教育を充実させることで、将来的な不妊予防効果も期待されます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。