
はじめに
慢性炎症は不妊症、流産、妊娠合併症の重要なリスク因子とされています。食事による炎症の調節は生殖医学において注目される分野であり、抗炎症食品の摂取が妊活において有益である可能性が示唆されています。今回、世界11カ国のデータベースを基に開発された食事炎症指数(Dietary Inflammatory Index: DII)により、45種類の食品・栄養素の炎症効果を定量化した研究をご紹介いたします。
ポイント
DII最大抗炎症スコア-8.87、最大炎症促進スコア+7.98の範囲で食品の炎症性を評価でき、妊活における食事指導の客観的指標となりそうです。
引用文献
Nitin Shivappa, et al. Public Health Nutr. 2014 Aug;17(8):1689-96. doi: 10.1017/S1368980013002115.
論文内容
食事の炎症惹起性を比較する文献由来の人口ベースDIIの設計・開発を目的とした研究です。2010年12月までに発表された食事と炎症に関する査読論文について、IL-1β、IL-4、IL-6、IL-10、TNF-α、CRPの6つの炎症性バイオマーカーへの各栄養成分の影響を検索・評価しました。世界11カ国の食品摂取データセットを同定し、45の食品パラメータの摂取量を多様な人口集団における摂取範囲に対して相対的に表現できるようにしました。
結果
2010年12月までに発表された食事パラメータと6つの炎症マーカーの影響に関する約6,500の論文がDIIスコアリングアルゴリズムの組み込みについて評価されました。適格論文(n=1,943)が読まれ、検索で特定された45の炎症促進・抗炎症食品パラメータに基づいてスコア化されました。この複合グローバルデータベースに適合させると、最大炎症促進食の DIIスコアは+7.98、最大抗炎症 DIIスコアは-8.87、中央値は+0.23でした。
| 食品・栄養素 | 炎症効果スコア | 世界平均摂取量 | 標準偏差 | 単位 |
|---|---|---|---|---|
| フラボノン類 | -0.908 | 11.70 | 3.82 | mg |
| ターメリック | -0.785 | 533.6 | 754.3 | mg |
| 食物繊維 | -0.663 | 18.8 | 4.9 | g |
| フラボン類 | -0.616 | 1.55 | 0.07 | mg |
| イソフラボン | -0.593 | 1.20 | 0.20 | mg |
| ジンジャー | -0.588 | 59.0 | 63.2 | g |
| β-カロテン | -0.584 | 3718 | 1720 | mg |
| 緑茶・紅茶 | -0.536 | 1.69 | 1.53 | g |
| マグネシウム | -0.484 | 310.1 | 139.4 | mg |
| フラボノール類 | -0.467 | 17.70 | 6.79 | mg |
| n-3脂肪酸 | -0.436 | 1.06 | 1.06 | g |
| ビタミンC | -0.424 | 118.2 | 43.46 | mg |
| ビタミンE | -0.419 | 8.73 | 1.49 | mg |
| ガーリック | -0.412 | 4.35 | 2.90 | g |
| ビタミンA | -0.401 | 983.9 | 518.6 | RE |
| 亜鉛 | -0.313 | 9.84 | 2.19 | mg |
| アルコール | -0.278 | 13.98 | 3.72 | g |
| 食品・栄養素 | 炎症効果スコア | 世界平均摂取量 | 標準偏差 | 単位 |
|---|---|---|---|---|
| 飽和脂肪酸 | +0.373 | 28.6 | 8.0 | g |
| 総脂肪 | +0.298 | 71.4 | 19.4 | g |
| トランス脂肪酸 | +0.229 | 3.15 | 3.75 | g |
| エネルギー | +0.18 | 2056 | 338 | kcal |
| コレステロール | +0.11 | 279.4 | 51.2 | mg |
| 炭水化物 | +0.097 | 272.2 | 40.0 | g |
| 鉄 | +0.032 | 13.35 | 3.71 | mg |
| タンパク質 | +0.021 | 79.4 | 13.9 | g |
私見
妊活における食事指導では、地中海食やFertility dietなどの抗炎症食パターンが推奨されていますが(Gaskins AJ, et al. Obstet Gynecol Clin North Am, 2012)、DIIはより客観的で定量的な評価を可能になります。
DIIスコアは個人の各食品摂取量を世界平均と標準偏差を用いてZ-scoreに変換し、パーセンタイル化後に炎症効果スコアと掛け合わせて算出します。45項目の詳細な栄養成分分析と計算が必要で、手動では食事記録から計算まで約2-2.5時間を要します。システム化しても食事記録入力に30分程度かかり、全項目の正確な摂取量測定は現実的に困難です。そのため現時点では研究レベルでの活用が中心で、臨床現場での応用はハードルが高いです。主要食品に絞った簡易版の開発や段階的導入が実用化への鍵となると思います。
我々も食事と生殖補助医療成績を何度も検討したいと思って問診票に組み込もうと思っていましたが中々うまくいきません。簡易版でもいいので妊活中の食事意識をたかめていけたらと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。