
はじめに
卵管妊娠は妊娠全体の2%を占めます。治療選択肢として薬物治療(メトトレキサート)と外科的治療(卵管切除術または卵管切開術)があります。治療法により将来妊孕性や再発率における長期的な転帰を調査した報告をご紹介いたします。
ポイント
卵管妊娠に対する薬物治療は外科的治療と比較して将来出生率が高く(51.6% vs 45.1%)、特に卵管温存の重要性が示されましたが、再発リスク増加を伴いました。
引用文献
Adam Rosen, et al. Am J Obstet Gynecol. 2025. doi: 10.1016/j.ajog.2025.07.008.
論文内容
卵管妊娠に対する薬物治療と外科的治療を受けた患者の将来出生転帰を比較することを目的とした人口ベース後ろ向きコホート研究です。カナダ・オンタリオ州の単一支払者公的資金医療システムから得られた管理データベースを使用しました。2008年1月1日から2019年12月31日の間に異所性妊娠治療を受けた20〜40歳の患者17,090例を対象とし、治療方法(薬物 vs 外科的)により比較しました。患者平均年齢は薬物治療群31.40歳、外科的治療群30.90歳でした。ベースライン特性を収集して標準化差により比較し、多変量ロジスティック回帰を用いて治療方法と転帰の関連を検討しました。
結果
17,090例の卵管妊娠が報告され、8,204例(48.0%)が薬物治療、8,737例(51.1%)が外科的治療、149例(0.8%)が両方の治療を受けました。薬物治療群の将来出生率は51.6%であったのに対し、外科的治療群では45.1%でした。卵管妊娠治療から初回分娩までの期間は薬物治療群で平均2.11年、外科的治療群で平均2.31年でした。これらの群における卵管妊娠再発率はそれぞれ7.4%と6.4%でした。ベースライン特性を調整後、将来出生率と再発率の両方でメトトレキサート治療群が外科的治療群より高い結果を示しました(将来出生:OR、1.38;95%CI、1.29-1.48;P<.001;再発:OR、1.31;95%CI、1.15-1.48;P<.001)。
外科的治療のサブグループ解析では重要な知見が得られました。手術アプローチは腹腔鏡が84.65%(6,918例)、開腹が15.31%(1,251例)でした。手術方法は卵管切除術88.37%(7,222例)、卵管切開術10.35%(846例)で、圧倒的に卵管切除術が多く施行されていました。将来出生率において、卵管切開術群58.04%(491例)が卵管切除術群42.76%(3,088例)より有意に高く(aOR、1.36;95%CI、1.16-1.60;P<.001)、卵管温存の重要性が明確に示されました。一方で、再発率は卵管切開術群で11.35%(96例)と卵管切除術群の5.93%(428例)より有意に高くなりました(aOR、1.57;95%CI、1.22-2.02;P<.001)。外科的治療失敗率(90日以内の再手術)は卵管切開術で1.5%、卵管切除術で0.1%でした。30日以内の救急外来受診率は卵管切開術群20.6%、卵管切除術群16.9%、再入院率はそれぞれ4.4%、2.2%でした。
薬物治療群では失敗率が15.3%(1,252例)で、30日以内の救急外来受診率43.1%(3,540例)、再入院率16.4%(1,349例)と高い再介入率を示しました。
私見
将来の妊娠率と再発率はトレードオフの関係ですね。あとは将来の妊娠率は生殖補助医療をどのように組み込んだ上での結果かですね。今回は将来の妊娠形式にはふれられていないので、純粋に卵管がなくなる分だけ卵子と精子が出会うチャンスが減るから将来の妊娠率がさがるという結論なのかなと思っています。
将来妊孕性が薬物治療>卵管切開術>卵管切除術の順で高く、卵管の物理的な喪失が妊孕性に与える影響の大きさが示されたことです。
先行研究では、De Bennetot, et al. (Fertil Steril, 2012)が1,064例を対象とした研究で、腹腔鏡下卵管切除術、卵管切開術、薬物治療の将来妊娠率を比較し、単変量解析では卵管切除術で妊娠率が低かったが多変量解析では有意差がなかったと報告しています。Mol, et al. (Hum Reprod Update, 2008)によるシステマティックレビューでは、腹腔鏡下卵管切開術と薬物治療の妊孕性に差がないとされています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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