
はじめに
大豆にはイソフラボンというフィトエストロゲンが含まれており、内在性エストロゲンと構造的に類似し、エストロゲン受容体αおよびβに結合することが報告されています。動物実験では、フィトエストロゲンが子宮内膜インプラントの成長と発育を阻害する可能性が示唆されていますが、ヒトにおけるフィトエストロゲンと子宮内膜症との関連についての報告はあまりありません。今回、大豆とイソフラボン摂取と腹腔鏡で確認された子宮内膜症リスクとの関連を調査した前向きコホート研究をご紹介します。
ポイント
西欧集団における適度な大豆製品摂取は、腹腔鏡で確認された子宮内膜症リスク低下と関連していました。
引用文献
Makiko Mitsunami, et al. Fertil Steril. 2025;124:1061-70. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.06.028.
論文内容
大豆とイソフラボン摂取と腹腔鏡で確認された子宮内膜症リスクとの関連を調査することを目的とした研究です。Nurses’ Health Study IIを用いた1991年から2021年までの前向きコホート研究で、1991年に27-44歳の閉経前参加者82,084名を対象としました。大豆とイソフラボン摂取は1991年から4年ごとに食物摂取頻度調査票を用いて評価されました。2年ごとの追跡調査において、自己申告による腹腔鏡で確認された子宮内膜症を主要評価項目としました。
結果
1,038,888人年の追跡期間中に、腹腔鏡で確認された子宮内膜症の発症例3,829例が報告されました(発症率=10万人年あたり369例)。週1回分の大豆摂取増加は、腹腔鏡で確認された子宮内膜症リスクの8%低下と関連していました(HR、0.92; 95%CI、0.87-0.98)。この関連は、不妊の同時報告がない参加者において認められましたが(HR、0.92; 95%CI、0.86-0.99)、不妊診断を同時に報告した参加者では認められませんでした(HR、0.97; 95%CI、0.83-1.13)。イソフラボン摂取と腹腔鏡で確認された子宮内膜症リスクとの間に非線形逆関係の証拠があり、イソフラボンと子宮内膜症の間の逆関係は1日4mg(摂取量の約95パーセンタイル)まで近似的に線形で、その後プラトーに達しました。
私見
今回の研究は、大豆と子宮内膜症の関係を調査したこれまでの研究と一致しています。
効果が認められたイソフラボン摂取量は1日4mg程度で、これは豆腐100g(3cm大)または豆乳250mLを6日に1回摂取することに相当する非常に少ない量です。重要なことに、この摂取量を超えてもプラトー効果により追加の効果は認められず、適度な摂取で十分な効果が期待できることが示されました。日本人の平均的なイソフラボン摂取量は1日16-30mgとされており、一般的な日本食での摂取レベルであれば、追加で摂取量を増やしても効果がないかもしれません。
不妊を同時に報告した参加者では大豆摂取と子宮内膜症の逆関係が認められませんでした。大豆が子宮内膜症発症ではなく月経困難症改善に関連している可能性を示唆します。
厚労省が記載している「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」も参考にしてみてください。
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0202-1a.html
文責:川井清考(WFC group CEO)
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