
はじめに
2016年にPOSEIDON(Patient-Oriented Strategies Encompassing Individualized Oocyte Number)基準が導入され、年齢、卵巣予備能、採卵数などを考慮したより詳細な低予後患者の層別化が可能になりました。しかし、POSEIDON分類における各グループの累積出生率や、複数周期の治療により累積出生率がいつプラトーに達するかについては、十分なエビデンスが不足していました。今回、中国5都市の生殖医療センターで実施された大規模多施設後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
若年低予後患者は複数の卵巣刺激周期により年齢相応の正常反応者と同等の累積出生率を達成できますが、高齢低予後患者、特に40歳以上では追加周期による改善効果が限定的です。
引用文献
Yixuan Zou, et al. Fertil Steril. 2025 Dec;124(6):1283-1292. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.06.037.
論文内容
POSEIDON分類に基づく低予後患者群のIVF治療における累積出生率を評価することを目的とした多施設後方視的コホート研究です。2013年1月から2017年12月まで中国5都市(広州、武漢、西安、南京、鄭州)で初回ART治療を受けた100,821名の女性患者を対象としました。
卵巣刺激プロトコルとしてGnRHアゴニスト法、GnRHアンタゴニスト法、PPOS法が使用され、プロトコルの選択は患者の年齢、卵巣予備能、BMIなどに基づいて担当医が決定しました。ゴナドトロピンの初期投与量は150~300 IU/日の範囲で、卵胞発育は経腟超音波と血清ホルモン測定でモニタリングされました。hCGまたはGnRHアゴニストトリガー後36時間で超音波ガイド下に採卵が実施されました。Day 3またはDay 5に超音波ガイド下で最大2個の胚を移植しました。胚凍結にはガラス化法が用いられました。凍結融解胚移植では、自然周期またはホルモン調整周期で最大2個の凍結融解生存胚を移植しました。累積出生率をKaplan-Meier法により推定し、Cox回帰モデルで解析しました。
結果
POSEIDONグループは以下の通りに分けられます。
グループ1a: young unexpected poor responders
グループ1b: young unexpected suboptimal responders
グループ2a: advanced-age unexpected low responders
グループ2b: advanced-age unexpected suboptimal responders
グループ3: young expected poor responders
グループ4: advanced-age expected low responders
POSEIDONグループ間の累積出生率は高い順に、グループ1b、1a、2b、3、2a、4でした。POSEIDONグループ1aおよび3では、周期を追加するごとに5%以上の継続的な増加が認められました。POSEIDONグループ1bの累積出生率は若年非POSEIDONグループと同等に達しました。POSEIDONグループ2aおよび2bでは3周期後にプラトーに達し、POSEIDONグループ4では2周期後により早期にプラトーに達しました。年齢層別解析では、年齢上昇に伴う累積出生率の明確な低下が示されました。35~37歳および38~39歳の患者では周期追加ごとに5%以上の有意な改善が認められましたが、40歳以上の患者では追加周期からの利益が限定的でした。
具体的には、グループ1a: young unexpected poor respondersの最適推定累積出生率は6周期後に80.07%に達し、保守的推定では43.45%でした。グループ1b: young unexpected suboptimal respondersでは6周期後の最適推定が91.49%、保守的推定が58.71%と、若年非POSEIDONグループと同等の成績を示しました。グループ3: young expected poor respondersでは6周期後の最適推定が65.49%、保守的推定が35.10%でした。
グループ2a: advanced-age unexpected low respondersでは6周期後の最適推定が43.92%、保守的推定が22.20%、グループ2b: advanced-age unexpected suboptimal respondersでは最適推定が70.79%、保守的推定が38.54%でした。グループ4: advanced-age expected low respondersは最も予後不良で、6周期後の最適推定が29.02%、保守的推定が14.54%でした。
年齢別の詳細解析では、35~37歳のグループ2患者で最適累積出生率が1周期目から6周期目まで43.63%上昇し、保守的推定で45.43%に達しました。一方、グループ4では最適推定が57.4%、保守的推定が29.85%にとどまりました。38~39歳のグループ2では最適推定が68.47%、保守的推定が35.50%でしたが、グループ4では50.23%および20.18%でした。40歳以上では両グループとも著明な低下を示し、43歳以上では6周期後でもグループ2で13.93%、グループ4で6.36%の最適累積出生率にとどまり、周期あたりの増加は5%未満でした。
私見
若年低予後患者(グループ1a、1b、3)に関する知見は重要です。Li et al.(Front Endocrinol. 2019)やEsteves et al.(Front Endocrinol. 2021)の先行報告と一致し、若年患者では複数周期により良好な累積出生率を達成できることが確認されました。特にグループ1bでは正常反応者と同等の成績が得られることは、この患者群の生殖予後が本質的には良好であることを示唆しています。
グループ2aと2bの予後差については重要な知見です。本研究では両群の最適累積出生率に25%以上、保守的推定で15%以上の明確な差が認められました。Leijdekkers et al.(Hum Reprod. 2019)では、グループ2bがグループ2aより高い傾向が示されたものの、サンプルサイズが小規模(2a=41名、2b=102名)であったため統計学的有意差には達しませんでした。本研究の大規模データ(2a=2,617名、2b=4,946名)により、この予後差が明確に確認されたことは、今後の研究でグループ2aと2bを別個に評価することの重要性を強く示唆しています。
高齢患者に関する知見も重要です。Gu et al.(Aging. 2021)やPolyzos et al.(Fertil Steril. 2018)と一致し、40歳を境に累積出生率の顕著な低下が認められました。特に43歳以上では複数周期を重ねても累積出生率の上昇は極めて限定的であり、この年齢層では治療継続の限界を患者と十分に話し合う必要があります。
この報告はFigを含めて年齢層別およびPOSEIDONグループ別により詳細な解析が行われていますので、とても参考として使いやすく、臨床に携わっている立場として合致がいくデータだと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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