
はじめに
不妊は心理的ストレスと明確に関連しています。不妊を経験している個人は、そうでない人と比較して2〜3倍精神状態が悪化するとされています。精神状態は治療失敗を繰り返すことでさらに増悪する可能性があります。既存の心理的介入の効果は小さいとされてきました。今回、オンライン・セルフガイド心理療法介入プログラムの比較試験をご紹介いたします。
ポイント
オンライン7週間セルフヘルププログラムCoping with Infertility(CWI)は、ベースラインでQOLが低い、または抑うつや不安症状が高い人々において、通常治療と比較して生活の質、苦痛、抑うつ、不安の改善に大きな効果を示しました。
引用文献
Poulter MML, et al. Hum Reprod. 2025;00(00):1-16. doi: 10.1093/humrep/deaf237.
論文内容
不妊患者の精神的健康改善において、オンライン7週間セルフヘルププログラムCoping with Infertility(CWI)が通常治療よりも効果的であるかを検証することです。2024年1月から11月にかけて実施された並行RCTで、不妊を経験している成人女性を、事前に決定された層別ブロック無作為化スキームを用いてCWIプログラム(n=87)またはウェイトリスト/通常治療対照群(n=86)に無作為に割り付けました。CWIプログラムに割り付けられた参加者には7週間にわたり毎週1本の10分間のビデオモジュールが電子メールで送信されるか、モバイルアプリでビデオへのアクセスが提供されました。ウェイトリスト/通常治療対照群の参加者は研究終了まで日常生活を続けました。心理学的評価はベースライン、治療後、および治療後16週間にわたり2週間ごとに評価されました。14名の参加者が解析から除外されるか追跡不能となり、160名(CWIプログラムn=77、ウェイトリスト/通常治療対照群n=83)がintent-to-treat解析に含まれました。
結果
CWIプログラムに参加した参加者は、フォローアップ期間を通じてウェイトリスト/通常治療対照群と比較して不妊関連QOLが高く(M(SE)=63.2(0.5) vs 54.5(0.5)、Cohen’s d=0.53、P<0.001)、不妊関連苦痛が低く(M(SE)=21.6(0.2) vs 23.9(0.2)、d=0.35、P<0.001)、抑うつ気分が低く(M(SE)=5.3(0.2) vs 7.7(0.2)、d=0.56、P<0.001)、不安が低い(M(SE)=5.1(0.2) vs 7.7(0.2)、d=0.66、P<0.001)ことが報告されました。治療効果は、ベースラインでQOLが低い、または臨床的に有意な抑うつ気分と不安症状を有する参加者で顕著であり、これらのサブグループでCohen’s d=0.91〜1.10の大きな効果サイズが認められました。CWIプログラム参加者の86.4%がPHQ-9で臨床的に意味のある最小変化量(4点)に到達したのに対し、通常治療対照群では38.2%でした(P<0.001)。同様に、GAD-7においてもCWIプログラム参加者の73.9%が最小変化量に到達したのに対し、通常治療対照群では37.9%でした(P=0.009)。研究終了時点での臨床的うつ病(PHQ-9スコア≧10)の割合は、CWIプログラム群16.6%、通常治療対照群40.1%でした(P<0.001)。臨床的不安(GAD-7スコア≧10)の割合は、CWIプログラム群19.0%、通常治療対照群33.8%でした(P=0.024)。パートナーとの関係の質、構造化臨床面接による気分および不安障害の診断率(ベースラインでの診断率を調整後、P=0.131)、妊娠率に対する治療効果は統計的に有意ではありませんでした(P>0.05)。
私見
今回紹介したオンライン・セルフガイド心理療法介入プログラム: Coping with Infertility(CWI)プログラムは、不妊に関連する苦痛を軽減するために開発された7週間のオンライン・セルフガイド型心理療法プログラムです。このプログラムは各週10分間のビデオモジュールと宿題で構成され、認知行動療法、アクセプタンス&コミットメント・セラピー、対人関係療法の要素を統合しています。7つのモジュールの内容は、(1)認知の再構成(極端な否定的思考への挑戦)、(2)中核信念への挑戦、(3)行動活性化(楽しい活動の再導入)、(4)悲嘆への対処、(5)関係性の強化、(6)価値に基づく生活、(7)まとめ、となっています。患者アドバイザーがプログラム開発に深く関与し、内容と順序を決定し、スクリプトとビデオを修正しました。モバイルアプリまたは電子メールでアクセス可能で、専門家による直接指導は含まれません。
セルフガイド型介入(患者が自分で学習・実践する形式)が臨床医ガイド型(医療者が直接指導する形式)と同等の効果を持つことは複数の研究で示されており(Berger et al., Cogn Behav Ther, 2011; Titov et al., BJPsych Open, 2016)、これは重要な臨床的意義を持ちます。すなわち、医療者の直接的な関与なしに患者自身が取り組める心理療法プログラムでも十分な治療効果が得られることを意味し、医療資源が限られている状況下でも多くの患者にアクセス可能な治療選択肢を提供できることを示しています。本研究もその知見を支持するものです。
プログラムのアドヒアランスが高いことは、CWIプログラムが、10分間という短いモジュール、テーラーメイドされた内容、アクセスの容易さなど作り込まれたプログラムだったからだと思っています。AIが普及してきた今、サポートプログラムを準備することにより不妊カップルの心理的QOLが改善できそうです。国々によりポイントが異なりそうですから、日本独自のプログラムが構築できればなと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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