
はじめに
子宮内膜症は生殖年齢女性の約10%に認められ、不妊症の主要な原因の一つです。多くの子宮内膜症患者が妊娠を目指して生殖補助医療を受けていますが、他の不妊原因と比較した場合の治療成績については議論が続いています。累積出生率は複数の完全周期(一回の卵巣刺激に伴う全ての新鮮胚移植および凍結融解胚移植)における治療成績を包括的に評価する指標として重要ですが、子宮内膜症が累積出生率に及ぼす影響についてのデータは限られています。本研究は、オーストラリアおよびニュージーランドの生殖補助医療データベース(ANZARD)を用いて、子宮内膜症女性の生殖補助医療における累積出生率を検討したレトロスペクティブコホート研究です。
ポイント
子宮内膜症単独不妊女性の累積出生率は、子宮内膜症に他の不妊因子を併存する群や他の不妊原因群と比較して良好でした。6完全周期後の累積出生率は、子宮内膜症単独群で64~83%、子宮内膜症併存群で54.3~68.7%、他の不妊原因群で57.3~76.5%でした。
引用文献
Repon C. Paul, et al. Hum Reprod. 2025;40(12):2342-2350. doi: 10.1093/humrep/deaf191.
論文内容
本研究は、2014年から2019年の間にオーストラリアおよびニュージーランドで初回の自己卵巣刺激周期を受けた79,318名の女性を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。対象者は不妊診断に基づき、子宮内膜症単独群(n=4,311)、子宮内膜症併存群(n=6,312、子宮内膜症と他の不妊因子を併存)、他の不妊原因群(n=68,695、子宮内膜症なし)の3群に分類されました。不妊原因は、卵管因子、子宮内膜症、その他女性因子、男性因子、原因不明不妊として各治療周期ごとに担当医師により記録されました。2021年まで、または初回の出生まで追跡し、治療を中止した女性の出生確率に関する仮定に基づいて、保守的累積出生率と最適累積出生率を算出しました。完全周期は1回の卵巣刺激に伴うすべての胚移植(新鮮胚移植および凍結融解胚移植)と定義されました。
結果
子宮内膜症は5%の女性で単独不妊原因として報告され(子宮内膜症単独群)、8%は他の診断と併存していました(子宮内膜症併存群)。子宮内膜症併存群の内訳は、その他女性因子との併存が2,108名(2.7%)、2つ以上の不妊因子との併存が2,068名(2.6%)、男性因子との併存が1,390名(1.8%)、卵管因子との併存が746名(0.9%)でした。残りの女性は他の不妊原因(63%)または原因不明不妊(24%)でした。治療を中止した患者に関する仮定により、第6完全周期における累積出生率は、子宮内膜症単独群で64%から83%、子宮内膜症併存群で54.3%から68.7%、子宮内膜症のない女性で57.3%から76.5%の範囲でした。
子宮内膜症のない女性と比較して、出生率は子宮内膜症単独群で6%高く(RR: 1.06; 95% CI: 1.04–1.08)、子宮内膜症併存群で5%低くなりました(RR: 0.95; 95% CI: 0.93–0.97)。子宮内膜症単独群と比較して、妊娠損失は子宮内膜症併存群で46%高くなりました(RR: 1.46; 95% CI: 1.35–1.59)。初回完全周期後の出生率は、子宮内膜症単独群で39.6%、子宮内膜症併存群で27%、他の不妊原因群で35.3%でした。第6周期までに、子宮内膜症単独群はより高い累積出生率(保守的64.0%、最適83.0%)に達し、子宮内膜症併存群(保守的54.3%、最適68.7%)および他の不妊原因群(保守的57.3%、最適76.5%)を上回りました。
年齢別では、すべての年齢群において累積出生率は子宮内膜症併存群で一貫して最も低く、すべての不妊群で加齢とともに出生率は低下しました。
私見
複数の研究で、子宮内膜症女性と他の不妊診断を持つ女性との間で、受精率、胚盤胞形成率、着床率、正倍数性率が同等であることが示されています(Juneau, et al. Fertil Steril, 2017; Ata and Telek. Curr Opin Obstet Gynecol, 2021; Bishop, et al. Fertil Steril, 2021; Benlioglu, et al. Gynecol Obstet Invest, 2025)。
一方、子宮内膜症併存群は最も不良な成績を示しました。Senapatiらの291,244受精胚移植周期を対象とした集団ベースのレトロスペクティブコホート研究では、子宮内膜症と併存診断を持つ女性のキャンセル率(11.3%)は、単独の子宮内膜症女性(8.5%)や他の不妊診断を持つ女性(卵管不妊8.9%、原因不明不妊8.1%)よりも高く、予後不良を示していました(Senapati, et al. Fertil Steril, 2016)。
本研究の限界として、子宮内膜症の診断が各治療施設の医師による臨床診断であり統一された診断基準ではなかった点、子宮内膜症の重症度や表現型を評価できなかった点、手術介入の有無についての情報がなかった点でしょうか。
子宮内膜症は子宮腺筋症、子宮筋腫、子宮内膜ポリープなどと重複する”uterine syndrome”という概念もあります(Brosens and Benagiano. Indian J Med Res, 2011)。内膜症と他不妊原因の組み合わせごとの治療予後をしっかりイメージし治療戦略をたてていくことが重要なのかと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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