
はじめに
帝王切開瘢痕の位置や治癒に影響を与える因子は十分に理解されていません。本研究では、分娩中の帝王切開後の瘢痕治癒、位置、形態に及ぼす妊娠中、分娩中、術中、産後の因子の影響を調査しました。
ポイント
分娩進行期の子宮口開大度と児の先進部位置が帝王切開瘢痕の位置を独立して予測し、子宮頸部内または子宮頸部近傍の瘢痕は子宮体部の瘢痕よりも治癒不良となります。
引用文献
Maria Ivan, et al. Am J Obstet Gynecol. 2026 Jan;229(1):195-209. doi: 10.1016/j.ajog.2025.09.013.
論文内容
活動的分娩中(子宮口開大4cm以上)に帝王切開を受けた女性を対象とした前向き観察コホート研究です。英国University College London Hospitalにて2021年1月から2022年10月に実施されました。経腟超音波検査を産後4〜12ヶ月に実施し、帝王切開瘢痕の特徴と内子宮口に対する位置を評価しました。瘢痕治癒不良の指標は、瘢痕ニッチの存在(深さ≧2mm)および/または治癒比(残存筋層厚/隣接筋層または子宮頸管厚)≦0.5としました。回帰分析により、臨床変数と帝王切開瘢痕パラメータとの関連を評価しました。
結果
帝王切開瘢痕は被験者の96.8%(90/93)で同定されました。進行期分娩帝王切開(子宮口開大8〜10cm)は、早期分娩帝王切開(子宮口開大4〜7cm)と比較して、内子宮口と同じ高さまたは子宮頸部内または子宮頸部近傍に位置する瘢痕の可能性が8倍高くなりました(RR、7.77;95%CI、2.59〜23.39;P<0.001)。手術時の子宮口開大度と児の先進部位置が、内子宮口に対する瘢痕位置に有意に影響しました(P<0.001)。分娩中の子宮口開大度が1cm増加するごとに、瘢痕は子宮または子宮頸部上で0.88mmより尾側に位置しました(95%CI、0.62〜1.14;P<0.001)。同様に、母体骨盤内での児の下降が1cm進むごとに、帝王切開瘢痕は子宮または子宮頸部上で1.5mmより尾側に位置しました(95%CI、0.71〜2.33;P<0.001)。子宮口開大度は児の先進部位置よりも瘢痕の低位置をより強く予測しました。ニッチの有病率は37.8%(34/90)で、そのうち67.6%(23/34)が治癒比≦0.5でした。瘢痕治癒不良のリスク因子には、妊娠初期のBMI≧25(ニッチ発生RR、1.8;95%CI、1.1〜2.9;P=0.036、低治癒比RR、2.8;95%CI、1.4〜5.5;P=0.003)、妊娠中期の子宮動脈血管ドプラ抵抗の増加(両側子宮動脈拍動指数の合計>2.5)(ニッチ発生RR、2.6;95%CI、1.7〜3.8;P=0.005、低治癒比RR、3.4;95%CI、1.9〜6.0;P=0.005)、妊娠週数>40週(ニッチ発生RR、2.2;95%CI、1.1〜4.3;P=0.013)、手術中のロッキング縫合の使用(第1層ロッキングでニッチ発生RR、2.2;95%CI、1.2〜4.0;P=0.008、両層ロッキングでニッチ発生RR、3.3;95%CI、1.8〜6.1;P=0.009)、産後超音波検査での内子宮口より尾側に位置する帝王切開瘢痕(ニッチ発生RR、1.7;95%CI、1.0〜3.0;P=0.041、低治癒比RR、2.7;95%CI、1.3〜5.7;P=0.005)が含まれました。内子宮口より頭側に位置する子宮体部瘢痕は、子宮頸部内、内子宮口と同じ高さまたはそれより尾側に位置する子宮頸部瘢痕と比較して、有意に大きなニッチ寸法を示しました(P<0.05)。
私見
帝王切開は次回の妊娠やQOLをイメージして行うわけではなく、現在の母児の状態を最優先に行うわけですが、今回の報告からも不妊治療施設としても適切な説明ができるようにしておきたいと思います。また、全開大後帝王切開後妊娠において、内子宮口から5mm以内または子宮頸部内に位置する瘢痕は、自然早産リスクを大幅に上昇させる報告があること(OR、6.9;95%CI、1.3〜58;P=0.035)(Banerjee A, et al. Am J Obstet Gynecol MFM. 2024)、子宮頸部瘢痕は子宮体部瘢痕よりも治癒不良であり、局所的な粘液形成過程の障害が原因と考えられていること(Vervoort AJMW, et al. Hum Reprod. 2015)も勉強になりました。
今回の検討では術後4-12ヶ月(平均7±2ヶ月)での検討が行われています。過去の報告では2-12月で帝王切開瘢痕のリモデリングがおこるともされており、不妊治療施設に次の子ども希望で来院したときの評価時期も意識していきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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