研究の紹介
参考文献
日本語タイトル
ヒト精液パラメータの季節変動:システマティックレビューおよびメタアナリシス
英語タイトル
Seasonal Variations in Human Semen Parameters: A Systematic Review and Meta-Analysis
Dehghanbanadaki H, 他. Andrology. 2025 Dec 31:e70167. doi: 10.1111/andr.70167. PMID: 41474168.
はじめに
ヒトの出生には季節性が存在することが古くから知られており、動物では繁殖活動が季節によって調節される例も多く報告されています。一方で、人間においても精子形成や精巣機能が環境要因の影響を受ける可能性が指摘されています。
例えば、日照時間の変化によってメラトニン分泌が変化し、それが精子形成に影響を及ぼす可能性や、気温の変化による陰嚢温度の変動が精巣環境に影響する可能性などが考えられています。
もし精液所見に季節による一定の傾向が存在するのであれば、不妊検査の解釈や妊娠を目指すタイミングの考え方にも影響する可能性があります。季節によって精液所見が変化するのであれば、妊活を集中的に行う時期を設定することも一つの戦略になるかもしれません。このような観点からも、精液所見の季節変動を検討することは非常に興味深いテーマといえます。
研究のポイント
精液所見は個人差や日内変動が大きいことが知られていますが、季節による影響もある可能性が指摘されています。
本研究は、複数の研究を統合したメタアナリシスにより、精液所見の季節変動を検討したものです。
結果として、冬から春にかけて精子濃度や総精子数が良好である傾向が示されました。
研究の要旨
男性の生殖機能は環境要因の影響を受ける可能性があり、その一つとして季節変動が精液所見の変動を引き起こす可能性があります。しかし、これまでの研究結果は一貫しているとは言えず、季節が男性の生殖機能にどのような影響を与えるかについては十分に理解されていませんでした。本研究では、精液所見の季節による差に関する既存の研究を系統的にレビューし、メタアナリシスを行いました。
PubMed、Web of Science、Scopusを用いて2025年3月までの文献を検索し、季節ごとの精液パラメータを検討した研究を対象としました。641研究が見つかり、最終的に21研究がメタアナリシスに含まれました。ランダム効果モデルを用いて、季節間の精液所見の差を解析しました。
その結果、冬および春では、夏や秋と比較して精液の質が良好である傾向が示されました。具体的には、精子濃度が約3.24~6.07x百万/mL高く、総精子数も約14.63~19.74x百万多い結果でした。また、遅い運動精子の割合は5.17~11.75%低い傾向が認められました。さらに、冬では正常形態率が夏や秋より約1.30%高く、春では総運動精子数や正常形態率が夏より高い傾向が示されました。
以上より、精液所見には季節変動が存在する可能性があり、特に冬から春にかけて精液の質が良好である傾向が示されました。
図.精液所見と季節の関係

私見と解説
本研究では、21の研究結果をまとめて解析したメタアナリシスの結果として、冬から春にかけて精液所見が比較的良好になる傾向が示されました。具体的には、精子濃度や総精子数、総運動精子数などが夏や秋より高く、逆に動きの遅い精子の割合は低い傾向が報告されています。
このような季節による違いが生じる理由として、いくつかの可能性が考えられます。
まず一つは、日照時間とメラトニンというホルモンの関係です。メラトニンは体内時計(睡眠や覚醒のリズム)に関係するホルモンですが、抗酸化作用を持ち、精子の働きを保つことにも関わっている可能性があります。日照時間が変化するとメラトニンの分泌量も変わり(夏には少なくなる傾向があります)、それが精子を作る働きに影響する可能性があります。
もう一つは、気温と陰嚢(いんのう)の温度です。精子は体温より少し低い温度の環境で最もよく作られることが知られています。そのため、夏のように気温が高い環境では陰嚢の温度も上がりやすく、精子を作る働きにとって不利になる可能性があります。逆に冬は陰嚢の温度が比較的低く保たれるため、精子が作られやすい環境になる可能性があります。
また、精子が作られて成熟するまでにはおよそ3か月程度かかることが知られています。そのため、季節による環境の変化は、数か月後の精液所見として現れる可能性があります。
このような知見は、実際の診療においても重要な意味を持つ可能性があります。まず、不妊外来で精液検査を評価する際には、1回の検査結果だけで判断することには限界があることを理解しておく必要があります。精液所見には生理的な変動があるため、季節の影響も考慮しながら、必要に応じて複数回の検査を行うことが大切です。
さらに、人工授精(IUI)や体外受精(IVF)などの治療のタイミングを考える上でも参考になるかもしれません。もし冬から春にかけて精液所見が改善する傾向があるのであれば、軽度の男性因子の場合には、その時期に治療を行うことが一つの考え方になる可能性があります。
日本は四季がはっきりしており、気温や日照時間の変化も比較的明確です。そのため、このような季節による精液所見の変化は、日本のカップルにとって妊活のタイミングを考えるうえでも参考になる可能性があります。
もちろん、季節による変化の程度は地域や気候によっても異なり、すべての方に当てはまるわけではありません。しかし、男性の生殖機能が環境の影響を受ける可能性を示した点は非常に興味深い結果です。精液所見は日常生活、体調、ストレスなどさまざまな要因によって変化しますが、本研究はその中に「季節」という要素も関係している可能性を示しており、男性不妊を理解するうえで重要な知見といえるでしょう。
男性の生殖機能は、体の健康状態や生活環境を反映するともいわれています。季節という視点から精液所見を考えることは、男性不妊をより広く理解するヒントになるのかもしれません。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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