
はじめに
アトピー性皮膚炎は小児の最大20%、成人の2〜5%に認められる慢性炎症性皮膚疾患です。アトピー性皮膚炎ではTh2優位の免疫応答が特徴的ですが、正常妊娠においても着床と胎児免疫寛容のためにTh1からTh2へのシフトが生じることが知られています。このため、アトピー性皮膚炎のTh2優位な免疫状態が受胎や妊娠維持に有利に働く可能性が仮説として提唱されてきましたが、これまで十分に検証されていませんでした。今回、デンマーク出生コホートを用いてアトピー性皮膚炎と妊孕能の関連を調査した大規模研究をご紹介いたします。
ポイント
アトピー性皮膚炎を有する女性は妊娠までの期間がやや短く、不妊治療の使用も少ないことから、アトピー性皮膚炎の免疫学的特性が受胎に有利に働く可能性が示唆されました。
引用文献
Kjersgaard CL, et al. Hum Reprod Open. 2026;2026(1):hoaf077. doi: 10.1093/hropen/hoaf077.
論文内容
アトピー性皮膚炎を有する女性がそうでない女性と比較して高い妊孕能を示すかどうかを検討したコホート研究です。デンマーク国立出生コホート(DNBC)に1996年から2002年に登録された88,713人の妊婦を対象としました。妊娠約17週に実施されたコンピュータ支援面接において、医師によるアトピー性皮膚炎の診断歴の有無が確認されました。妊娠が計画的か否か、妊娠までの期間(TTP)を5つのカテゴリーで回答し、不妊治療の使用有無も聴取されました。多項ロジスティック回帰モデルにより、アトピー性皮膚炎と妊孕能の関連を7つのカテゴリー(TTP 1ヵ月未満、1〜2ヵ月、3〜5ヵ月、6〜12ヵ月、12ヵ月超、不妊治療後妊娠、計画外妊娠)で評価しました。さらに、TTPを二値化した評価項目として、妊孕能低下(TTP 6ヵ月以上 vs 6ヵ月未満)および不妊(TTP 12ヵ月超 vs 12ヵ月以下)をロジスティック回帰で解析しました。アトピー体質(アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息、食物アレルギー)を有する女性についても評価を行いました。
結果
全体の3,641人(4.1%)が医師によるアトピー性皮膚炎の診断歴を報告しました。アトピー性皮膚炎のない女性と比較して、アトピー性皮膚炎を有する女性はTTP 12ヵ月超のRRRが0.83(95%CI: 0.72–0.96)、不妊治療使用のRRRが0.81(95%CI: 0.69–0.94)と低い値を示しました。ロジスティック回帰モデルでも、妊孕能低下のORは0.89(95%CI: 0.82–0.96)、不妊のORは0.85(95%CI: 0.77–0.95)と、アトピー性皮膚炎を有する女性で低い結果でした。サブ解析では、妊娠中に活動性アトピー性皮膚炎を報告した女性は不妊のORが0.76(95%CI: 0.60–0.96)とさらに低く、妊娠前にアトピー性皮膚炎があったが妊娠中には活動性でなかった女性の不妊のORは0.86(95%CI: 0.76–0.97)でした。湿疹のみを報告した女性では妊孕能との関連は認められませんでした。アトピー体質の解析では、他のアトピー疾患を伴わないアトピー性皮膚炎のみの女性でOR 0.82(95%CI: 0.71–0.94)と不妊リスクが低く、アトピー疾患数の増加に伴う用量反応関係は認められませんでした。
私見
先行研究との比較については、ディスカッションで以下のように整理されています。
今回の報告と同調
- Nilsson L, et al. Pediatr Allergy Immunol. 1997:
アトピー疾患を有する母親でやや高い出生数を認めています。 - Tata LJ, et al. Am J Epidemiol. 2007:
アトピー性皮膚炎やその他のアトピー疾患を有する女性でやや高い出生率を報告しています。 - Hanzlikova J, et al. Am J Reprod Immunol. 2009:
- アトピー性皮膚炎を有する女性が反復流産、不妊治療不成功、不妊のグループに含まれる可能性が低いことを観察しましたが、結果は統計的に有意ではありませんでした。
- Westergaard T, et al. Clin Exp Allergy. 2003:
アレルギー性鼻炎を有する女性でTTPが短いことを報告しています。
今回の報告と異なる報告
- Karmaus W, et al. Pediatr Allergy Immunol. 2003:
アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息を有する女性のTTPを検討し、アトピー疾患の有無でTTPに有意差を認めなかったと報告しています。 - Horev A, et al. Dermatology. 2022:
本研究とは対照的に、アトピー性皮膚炎の診断と不妊の間に強い関連を認めたと報告しています。
アトピー性皮膚炎がFLG遺伝子の機能喪失変異を介してビタミンD吸収を高め、それが妊孕能に好影響を与える可能性も議論されており(Khatib CM, et al. Exp Dermatol. 2024、Jukic AMZ, et al. Hum Reprod. 2019)、免疫学的機序以外のメカニズムも関与しうることが示唆されています。
ただし、妊娠の成立にはTh1/Th2およびTreg/Th17の複雑なバランスが必要であり、Th2優位のみで説明するのは過度の単純化であると著者ら自身が指摘しています。その結果と関連するのが、「アトピー体質の解析でアトピー疾患数との用量反応関係が認められなかった点」だと思います。Th2優位な免疫環境が妊孕能に有利であるならばアトピー疾患が重なるほど効果が強まることが予想されますが、実際には不妊リスクの低下はアトピー性皮膚炎のみの女性に限られ、喘息やアレルギー性鼻炎の合併により効果は減弱しました。著者らは、複数のアトピー疾患を有する女性ではより重症な病態や薬物使用の多様性が影響しているのではとしていましたが、実際はどうなんでしょうか。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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