研究の紹介
参考文献
日本語タイトル
デンマークの若年男性における食事パターンと精巣機能の関連
英語タイトル
Association of Dietary Patterns With Testicular Function in Young Danish Men.
Nassan FL, 他. JAMA Netw Open. 2020 Feb 5;3(2):e1921610. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2019.21610. PMID: 32083688.
はじめに
近年、不妊原因の約半数が男性側にあるという認識が広まり、男性の妊活への社会的関心が高まっています。しかし日常の診察や相談の場では、食事が精巣機能に及ぼす影響について、具体的なデータに基づいた議論は十分になされてきませんでした。本研究は、2020年発表で少し前のものですが、若いうちからの食習慣の選択が将来の生殖能力にどう関わるかを示す、臨床的にも重要な知見を提供しています。
研究のポイント
- 西洋式食生活の負の影響: ピザや加工肉を中心とする「西洋式」食事を好む男性は、交絡因子を調整した多変量解析において、「西洋式」食事の摂取が最も少ない群と比べ総精子数が2,600万個少ないことが示されました(95% CI, −42〜−9 x百万)。
- 健康的(Prudent)な食生活のメリット: 魚・鶏肉・野菜・果物を中心とした健康的な食事パターンの実践度が高い男性では、総精子数が4,300万個多く(95% CI, 23〜63 x百万)、顕著な正の相関が確認されました。
- 修正可能な生活習慣因子として: 食事は本人の意志で変えられる因子です。自身の妊孕性を認識していない中央値19歳の若年男性において、早期からの食生活の改善が生殖機能の維持・向上に寄与する可能性を強く示唆しています。
研究の要旨
背景・目的
食生活は精巣機能に重要な役割を果たす可能性がありますが、特定の食事パターンが男性の精巣機能に与える影響についての包括的なデータは不足しています。本研究は、各食事パターンへの該当度と若年男性の精巣機能(精液所見およびホルモン値)との関連を検証することを目的としました。
方法
2008〜2017年にかけて、自身の不妊状態を知らないデンマーク人男性2,935名(中央値19歳)を対象とした横断研究を実施しました。食事摂取頻度調査票をもとに主成分分析で4つの食事パターンを抽出し、精液検査・性ホルモン濃度・超音波による精巣体積との関連を分析しました。
結果
「健康的(Prudent)」「西洋式(Western)」「オープンサンドイッチ(デンマーク伝統食)」「菜食主義に近い(Vegetarian-like)」の4パターンの食事が同定されました。多変量調整後、西洋式食事の実践度が最も高い群は最も低い群と比べ総精子数が2,600万個少なく、健康的な食事の実践度が最も高い群では4,300万個多い結果となりました。西洋式食事群ではインヒビンBおよびインヒビンB/FSH比の低下も認められました。
結論
健康的な食事パターンへの該当度が高いほど、良好な精液の質および精巣機能の指標と関連しており、食習慣が成人の妊孕性に関わる修正可能な因子として重要であることが示唆されます。
*西洋式の食事:
ピザ、フライドポテト、加工肉、赤身肉、スナック菓子、精製された穀物、砂糖入り飲料、スイーツなどの摂取が多いのが特徴です。その結果、食物繊維が不足し、添加糖類(砂糖など)が過剰になる傾向があります。
**健康的(Prudent pattern)とされる食事:
- 魚、鶏肉:特に「温かい魚」や「温かい鶏肉」の摂取が多いことが特徴です。
- 野菜:生野菜のサラダや、加熱調理された野菜の副菜などが含まれます。
- 果物、ナッツ類
- 水:飲み物として水を優先的に選択しています。
この食事を実践している男性の栄養プロファイル:
- 豊富な抗酸化物質とビタミン:野菜や果物の摂取量多いため、ビタミンC、ビタミンB(B6、B12、葉酸)、カロテノイドが豊富です。
- 良質な脂質:魚を多く食べることで、精子の質に良い影響を与える長鎖オメガ3脂肪酸の摂取量が多くなっています。
- 糖類の制限:西洋式の食事とは対照的に、「添加糖類(砂糖など)」の摂取量が少ないことが報告されています。
このように、加工肉や赤身肉を避け、魚や鶏肉、新鮮な野菜・果物を中心とした、バランスの良い未精製の食品を日常的に取り入れているのが「健康的な食事」の内容です。
図. 食事パターンと精液所見


私見と解説
本研究は、西洋式食生活が精巣機能に及ぼす負の影響を大規模集団で統計的に裏付けた、重要な報告です。特筆すべきは、精子数の減少にとどまらず、内分泌系への影響が示唆されている点です。西洋式食事群ではテストステロンのエストラジオールへの芳香族化(アロマタイゼーション)が亢進し、増加したエストラジオールが視床下部・下垂体レベルで負のフィードバックをかけることで、精子形成の指標であるインヒビンBが低下してもFSHが適切に代償上昇しない、「二次性内分泌抑制」とも言うべき状態が生じている可能性があります。
また、デンマーク伝統の全粒粉パンと魚を組み合わせた「オープンサンドイッチ」パターンが精子運動率を2.3%改善したという結果も興味深く、地域の伝統食が具体的な生殖機能の改善につながり得ることを示す好例です。
対象が中央値19歳という、健康意識がまだ低い傾向にある若年層である点は非常に重要です。なるべく若いうちから加工食品を控え、魚・野菜・全粒粉を取り入れるといった日常の小さな選択の積み重ねが、将来の男性生殖機能を守る鍵となります。こうした食習慣の重要性を臨床の現場でも積極的に伝えいくことが重要であることを再認識しました。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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