プレコンセプションケア

2020.09.19

mHealthプログラムは不妊のため生活習慣改善にプラスに働く?( Fertil Steril. 2020)

はじめに

mHealth(モバイルヘルス)とは、スマートフォンやスマートウォッチなどの携帯端末を積極的に医療に導入することで個人の健康を高める仕組みで、今後成長を続けていくと考えられています。栄養状態や生活習慣は、不妊においてリスク要因となっていると考えられています。本論文は、行動変容を開始するためにmHealthが役に立つかの検証です。

ポイント

体外受精治療を受けているカップルに対して、携帯で行うことができるライフスタイルコーチングプログラム「Smarter Pregnancy」のコンプライアンスと有効性を多施設無作為化比較試験で検証しました。その結果、栄養不足状態の改善が男女共に認められ、女性では生活行動の改善も認められました。

引用文献

Elsje C Oostingh, et al. Fertil Steril. 2020 DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.04.051.

論文内容

体外受精治療を受けているカップルを対象に、携帯で行うことができるライフスタイルコーチングプログラム「Smarter Pregnancy」のコンプライアンスと有効性を多施設無作為化比較試験で検証しました。2014年7月から2017年3月まで体外受精治療を受けている女性626名と男性パートナー222名をライト(対照群)またはスマート・プレグナンシー・プログラム(介入群)に無作為に割り付けました。両群とも最初に質問票に栄養に関すること(野菜、果物、葉酸サプリの摂取)とライフスタイルの行動(喫煙、アルコール摂取など複合的な生活習慣)について記入し、介入群は24週間(6、12、18、24週)、不十分な行動に合わせた個別にメールなどを用いてコーチングを受けました。

結果

介入群の女性と男性では、対照群と比較して、24週間のコーチングを受けた後、男女共に「栄養不足状態の改善」がみられ、女性は「生活行動の改善」も認められました。対照群、介入群の52週間後の妊娠率には差がみられませんでした。
mHealthコーチングプログラム「Smarter Pregnancy」は効果的であり、体外受精治療を受けているカップルの間で最も重要な栄養とライフスタイルの行動を改善しました。

私見

政府も不妊治療や少子化に重点をおく良い流れになっています。様々なアプリや行動変容プログラムが出てくることや、サプリメントが乱用されることが考えられます。医療者として適切な介入を行っていくよう心がけたいと思います。
今回ご紹介の論文の結果は以下の通りでした。少しコメントを入れておきたいと思います。

①介入群は観察群に比べてドロップアウトの率が高かった。
→これはmHealthの問題ではなく、コーチングプログラム「Smarter Pregnancy」の問題です。やはり、タイトに管理されると気持ちが折れるのかもしれません。

②女性の肥満(BMI 25以上)、正常群で効果に差がなかった。

③肥満男性は正常男性に比べて野菜や果物の摂取量の改善・喫煙状況の改善に繋がった。
→肥満男性には妊娠に対しての意識を高めてあげることが大事なんだと思います。男性は女性よりも不妊治療に参加している気持ちが希薄になってしまうので、私たち自身も男性にも啓発していく必要があると感じました。

④女性は男性パートナーが一緒にプログラムに参加の有無は栄養状態や行動変容に無関係だった。
→なんとなく納得です。

⑤野菜・果物の摂取不足がプログラム参加者のアンケートでは目立った。

⑥コーチングプログラム開始後52週時点での妊娠率は、介入群:62.5%、対照群:67.3%と差は認められなかった。
→この結果をみると、生活習慣の改善はした方が良いと思いますが、体外受精の妊娠率に強く影響を与えるわけではないこともわかります。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# サプリメント

# 生活習慣

# 体重、BMI

# プレコンセプション

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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