
はじめに
子宮内膜症が不妊リスクを高めることは確立されていますが、流産や異所性妊娠などの早期妊娠予後との関連は依然として明確ではありません。内分泌異常やプロゲステロン抵抗性、癒着や慢性炎症の関与が想定されていますが、先行研究の結果は流産リスク上昇を示すものと有意な影響を認めないものに分かれています。また既存のコホート研究は症例数が限られ、追跡期間が短く、不妊症例やART妊娠に偏る傾向がありました。今回、フィンランドの全国登録データを用い、手術で確定診断された子宮内膜症と早期妊娠予後(流産、異所性妊娠、人工妊娠中絶、胞状奇胎)との関連を検討した大規模コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
手術で確定診断された子宮内膜症の女性では、生涯の妊娠率がやや低く、妊娠あたりの出産・人工妊娠中絶は少ない一方、流産と異所性妊娠による早期妊娠喪失リスクが高い可能性があります。
引用文献
J. Megan Gurney, et al. Am J Obstet Gynecol. 2026 Jun;1650-1661. doi: 10.1016/j.ajog.2026.01.027.
論文内容
子宮内膜症が流産、異所性妊娠、人工妊娠中絶、胞状奇胎を含む早期妊娠予後と関連するかを検討した後ろ向き登録コホート研究です。1972年以降に出生し、1998年から2012年にフィンランドのCare Register for Health Care(FCR)で初回の手術的子宮内膜症診断を受けた10,105人と、年齢・居住地でマッチさせた対照19,526人を対象としました。手術診断の前後を問わず、15歳から不妊手術、両側卵巣摘出、逐次的片側卵巣摘出、子宮摘出、死亡、移住、または調査終了までに登録された全妊娠を収集しました。妊娠の累積発生率と発生率を算出し、各妊娠転帰については割合、妊娠100あたりのリスク、ならびに年齢・妊娠回数・教育レベルで調整したRRを算出しました。追跡期間は子宮内膜症群256,906人年、対照群503,286人年でした。
結果
子宮内膜症群では7,731人(76.5%)に19,141妊娠、対照群では15,421人(79.0%)に43,478妊娠が認められ、追跡期間中央値は26.4年でした。1人あたりの平均妊娠数は子宮内膜症群1.89(SD 1.64)で対照群2.23(1.92)より少なく(P<.001)、妊娠率自体も低値で、教育レベルと出生年で調整した発生率比(IRR)は0.87(95%CI 0.86–0.89)でした。
転帰が判明した妊娠(調査終了時に進行中の妊娠を除く)の内訳をみると、子宮内膜症群では対照群と比べて流産(15.6% vs. 10.4%)と異所性妊娠(3.5% vs. 1.5%)の割合が高く、逆に出産(72.0% vs. 75.7%)と人工妊娠中絶(8.8% vs. 12.3%)の割合は低く、胞状奇胎(0.1% vs. 0.1%)には差を認めませんでした(胞状奇胎を除きいずれもP<.001)。妊娠100あたりに換算すると、子宮内膜症群では流産が5.1件多く、異所性妊娠が2.07件多い一方、出産は3.7件、人工妊娠中絶は3.51件少ない計算でした。
年齢・妊娠回数・教育レベルで調整した後も、流産リスク(調整RR 1.51; 1.43–1.60)と異所性妊娠リスク(2.45; 2.21–2.71)の上昇は有意に残存し、人工妊娠中絶の低下(0.69; 0.65–0.74)も維持されました。出産はわずかに低下し(0.93; 0.92–0.94)、胞状奇胎は有意差を認めませんでした(1.03; 0.60–1.56)。流産リスクの上昇は特に若年で強い傾向でした。
私見
流産については、本研究と同様にリスク上昇を示す報告が複数あります(流産増加派:Saraswat L, et al. BJOG. 2017〔診断後初回妊娠でOR 1.8〕、Santulli P, et al. Hum Reprod. 2016〔腹腔鏡前でIRR 1.6〕、Boje AD, et al. Fertil Steril. 2023〔反復流産との関連〕)。一方、ART妊娠のみを対象に差を認めなかった報告(流産不変派:Yang P, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2019)もあります。
異所性妊娠は、約2倍の上昇を示す報告(肯定派:Saraswat 2017、Hjordt Hansen MV, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2014、メタアナリシスのYong PJ, et al. J Minim Invasive Gynecol. 2020〔OR 2.16–2.66〕)と、影響なしとする報告(否定派:Gaskins AJ, et al. Fertil Steril. 2018)に分かれますが、本研究は癒着・炎症による卵管機能障害という機序を支持するのでしょうか。
臨床的には、妊娠を希望する子宮内膜症女性には、このような報告もあるという情報提供は重要だと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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