体外受精

2020.10.05

不良胚盤胞と良好胚盤胞を一緒に戻すと出生率に足をひっぱることがある?( Fertil Steril. 2020)

はじめに

二個胚移植をするかどうか。ここは、とても悩むところです。
例えば4つ胚盤胞を凍結できたとして、良い受精胚から戻しますから、1番手、2番手を移植して着床しない場合、この段階で着床不全の検査結果で何も異常がなかったら、次の移植をする時に、「1番手、2番手で妊娠しないのに3番手、4番手を戻して妊娠するか…。かといって、戻さずに次の採卵に進むのも心苦しい。それであれば、二個胚移植をするのはどうか?」患者様も、関わる医療者側もこのような感情を抱く機会が多くあると思います。
その際に懸念するのが、二個戻すことにより、
①本命の受精胚の足をひっぱらないか ②多胎のリスクがあがらないか、です。
こちらを評価した論文がございましたのでご紹介させていただきます。

ポイント

二個胚移植では、質の低い胚を一緒に戻しても良好胚の着床を妨げることはなかったものの、多胎妊娠のリスクは有意に増加しました。二個胚移植を検討する際は、出生率の改善だけでなく多胎妊娠による周産期合併症のリスクも十分に考慮する必要があります。

引用文献

Micah J Hill, et al. Fertil Steril. 2020. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.03.027

論文内容

胚は子宮内膜に着床の際にシグナルを送ることができ、胚の質が子宮内膜の受容性に悪影響を及ぼす可能性があることは十分に考えられます。
二個移植を実施した場合、受精胚同士が移植成績に害をあたえることがないかどうか検討することを目的として、2013-2015年の体外受精施設のデータをもとに後方視的に検討しました。
まずは単一胚盤胞移植(良好胚盤胞:ガードナー分類でAA,AB)と二個胚移植(良好胚盤胞:AA,AB + ガードナー分類でBA,BB,BCの中等度の胚盤胞、質の低い胚盤胞(CC,CB)、早期胚盤胞、胚盤胞になる前の桑実期胚)で出生率と多胎妊娠率を比較検討しました。

結果

4640周期の体外受精で解析されましたが、どの解析においても、パートナーに質の低い胚を移植したとしてもネガティブな影響を与えていませんでした。
一次解析では、パートナーに質の低い胚盤胞(CC,CB)を移植することで出生率が10%、多胎児出生率が15%増加しました。中等度の胚盤胞、質の低い胚盤胞、早期胚盤胞の追加は、多胎児出生率を22%〜27%有意に増加させ、出生率は8%〜12%増加しました。胚盤胞になる前の桑実期胚を追加しても出生数は増加しませんでしたが、12%の多胎児出生率の増加に至りました。
38歳未満の女性では、質の低い胚を追加した場合、出生率は7%増加しましたが、多胎児は18%増加しました。38歳以上の女性では、低品質の胚を追加すると、出生率は9%増加し、多胎数は15%増加しました。

私見

この論文では、以下のように書かれています。

①本命の受精胚の足をひっぱらないか
過去の実験である研究では、発生を停止した胚は、ヒトの脱落膜細胞にIL-1b、IL-6、IL-10、IL-17、IL-18、エオタキシン、およびHB-EGFの分泌を減少させることが証明されています。このことからも質の悪い胚を同時に戻した場合のネガティブな影響を懸念していましたが、胚盤胞にまでなっている胚であれば、ネガティブなクロストークを発生させて妊娠率を低下させるという結果にはなりませんでした。

②多胎のリスクがあがらないか
著明にあがるというのが結果となっています。
最近の報告では、胎盤になる部分のtrophectodermの状態が着床には影響することがわかっています。これは絨毛になる細胞の数が純粋に増えるからなのか、trophectodermからの胚外にでている着床に関連する因子の量が増えるからなのかは結論がでていません。二個胚移植をするとtrophectodermも二倍になるわけですから、どのような理由であれば着床率も改善をすることはしっくりきます。ただ、そこが着床不全の原因がtrophectodermに依存するのであれば、着床する場合は二個同時に着床するでしょうから、妊娠の代償に多胎となり、結果として周産期合併症・予後に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。
患者様は、健康な赤ちゃんを妊娠・出産し育てることをイメージして当院にいらっしゃっているはずですので、現在行っている治療と実際の妊娠後の予後を、きちんと伝えていく必要があるんだと思っています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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