はじめに
生殖補助医療の成績を画一化することが難しいのは、同じ薬を使用しても投与量・投与日数、そして組み合わせを患者さまごとにカスタマイズして治療の最大効率化を図ることを各施設が行っているからです。以前は、それぞれの治療方法を門外不出の成績のように管理されていた時代もありますが、最近では治療の透明化も含めて大手のクリニックは成績を開示している施設が増えてきました。
生殖補助医療の成績は卵巣刺激だけではなく、培養環境・移植方法などにも大きく左右されます。そのため国内のクリニックや日本産科婦人科学会の成績などは定期的に確認するようにしています。
ポイント
クロミフェン単独刺激とクロミフェン+HMG併用刺激を比較した結果、HMG併用群では回収卵子数、受精胚数、分割胚数、凍結胚盤胞数が増加しましたが、累積出生率は同程度でした。
引用文献
Shinya Karakida, et al. Reprod Med Biol. 2019 DOI: 10.1002/rmb2.12310
論文内容
クロミフェンベースのミニマム刺激サイクルにおいてHMG製剤を付加投与することにより妊娠成績を改善するかどうかを評価しました。
2016年1月から12月までの間に都内クリニック一施設でクロミフェン+HMG刺激を受けた女性年齢が30~39歳の患者231名(CC-HMG群)を、クロミフェン刺激のみの患者3657名(CC群)と1対1(223名ずつ)でプロペンシティスコアマッチングを行いました。卵巣刺激の回収卵から培養結果、および妊娠転帰を後方視的に比較検討しています。
結果
回収卵子数、受精胚数、分割胚数、凍結胚盤胞数はCC-HMG群でCC群と比較して増加しました。しかし、累積出生率は両群間で同程度となりました。回収卵子数の増加は両群共に累積出生率の改善と有意な相関がありましたが、CC-HMG群ではCC群よりも相関が低い傾向にありました(オッズ比、1.193 vs 1.553)。クロミフェンベースのミニマム刺激サイクルでは、クロミフェンのみで刺激を開始し、卵胞期後期に内因性ゴナドトロピンの分泌が不十分な場合にのみHMGの投与を検討しました。
論文でのミニマム刺激方法の概略
3日目に10mm以下の卵胞が3個以上の症例に対して検証
月経3日目からトリガーの前日まで クロミフェン50mg/日
超音波検査とホルモンプロファイルを含むモニタリングは通常8日目に開始され、排卵誘発日まで1日おきに継続して行われました。
トリガーはGnRH agonist剤
HMG、FSH製剤の追加基準
8日目に卵胞の個数や大きさなどを確認後
血清FSH値が10 mIU/mL未満の場合、hMG、FSHを150 IU投与
血清FSH値が10~15 mIU/mLの場合は、hMG、FSHを75 IU投与
私見
この論文をみるとHMGを300単位でも適切に使用すると、回収卵子数、受精胚数、分割胚数、凍結胚盤胞数が増加することが示されています。今回の論文では移植方法は様々なので判断が難しいのですが、採卵あたりの妊娠数・出生数に差がありませんので、同様の刺激を行う患者様への説明資料として参考になると思っています。
私は生殖補助医療に関わりはじめた2012年に加藤恵一先生に無理を申して、1週間見学をさせていただいたことがあります。なつかしいなー、そして、あーいう感動や刺激を、これからの世代に人たちに当院でもかんじてもらえるような施設にしていきたいと思います。

表:Shinya Karakidaら. Reprod Med Biol. 2019 DOI: 10.1002/rmb2.12310より改変
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。