体外受精

2020.10.21

ホルモン調整周期凍結融解胚移植のエストロゲン投与は漸増法?定常法?( Hum Reprod, 2016)

はじめに

エストロゲン・プロゲステロンは受精胚が着床し、妊娠継続する上で重要なホルモンです。体外受精は自然排卵に近づけることにゴールがあるわけではなく、体外受精に特化した方法で、どれくらい妊娠率を高め、流産率・周産期合併症を減らし、健常な出生児を模索し続けることが必要なのだと思っています。エストロゲン・プロゲステロンの外因投与による妊娠成立はまだまだ歴史が浅いです(Martins Wdeら、2006年)。プロゲステロン投与に関しては様々な薬剤が発売され議論にあがることが多いのですが、エストロゲンは、そこまでフォーカスされません。今回はエストロゲンの投与がどのような方法がよいのかを検討した論文をご紹介します。

ポイント

ホルモン調整周期下凍結融解胚移植において、エストロゲンの漸増法と定常法、経口投与と経皮投与の違いが出生率や妊娠率に与える影響を検討した後方視的研究です。経口・経皮投与いずれも定常法と漸増法の間で出生率に差はありませんでした。

引用文献

S. Madero, et al.Hum Reprod, 2016. DOI:10.1093/humrep/dew099

論文内容

2010年10月から2015年3月までに、顕微授精後の胚移植8362例(患者8254症例)を含む後方視的な調査です。合計5593名(66.9%)の患者がエストロゲン漸増投与、2769名(33.1%)の患者がエストロゲン定常投与を受けました。顕微授精を用いて受精胚を準備し、ほとんどの症例は分割期胚で月経周期12-14日目に移植しています。
エストロゲンの漸増法・定常法以外にも経口・経皮投与の違いなども生化学妊娠・臨床妊娠・流産率などと単変量および多変量解析によって分析しています。

結果

経口投与(33.0対32.5%、P = 0.81)と経皮投与(35.3対33.5%、P = 0.33)では、定常法と漸増法の間で出生率に差は見られませんでした。経口投与では生化学的妊娠率は定常法が漸増法よりも高くなりました(53.7対47.5%、P <0.001)。調整後の分析では、経皮投与よりも経口投与の方が生化学的妊娠率に大きな影響を与えることが確認されました(オッズ比(OR)1.28;95%信頼区間(CI)1.11~1.48、P = 0.001、OR 1.13;95%CI 1.00~1.30、P = 0.055)。エストロゲン補充の12日目と15日目の間の胚移植のサブ解析では、妊娠転帰において定常法と漸増法の間に差は認められませんでした。

ホルモン調整周期の方法
前の周期に84.2%の患者がGnRHアゴニストで下垂体抑制を行っています。

①エストロゲンの漸増法
経口:月経周期1日目から7日目まで2mg/日、8日目から12日目まで4mg/日、13日目から胚移植まで6mg/日
経皮:月経周期1日目と3日目に75mg、7日目から胚移植まで3日ごとに150mgの経皮吸収型パッチ(50mgの経皮吸収型パッチしかなかったイタリアで1日目に50mg、3日目に100mg、7日目から胚移植まで150mgを投与)

②エストロゲンの定常法
経口:経口エストロゲン6mg/日
経皮:1日目から胚移植日まで3日ごとに150mgの用量
黄体補充は400mg/日のウトロゲスタン腟用カプセルもしくは12時間毎のワンクリノンとしています。補充は妊娠した場合10週まで実施しています。

私見

その国々で使用できるエストロゲン・プロゲステロン製剤も異なってきますし、患者特性(人種やBMIなど)も異なります。国内・海外共にホルモン調整周期下凍結融解胚移植について講演する機会を数多くいただいておりますので、もう一段階掘り下げた当院データでの解析を行ってみたいと思っています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 黄体補充

# ホルモン調整周期下胚移植

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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