はじめに
体外受精治療において選択的単一胚移植は多胎妊娠を回避する有効な手段ですが、胚の早期分裂による一卵性双胎は依然として発生します。一卵性双胎は単胎妊娠や二卵性双胎と比較して周産期罹患率および死亡率が有意に高く、双胎間輸血症候群などの重篤な合併症のリスクがあります。自然妊娠における一卵性双胎の発生率は約0.4~0.45%とされていますが、生殖補助医療後では2~12倍高いとされています。今回、単一胚移植を受けた女性における母体年齢が一卵性双胎率に及ぼす影響を調査した大規模後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
36歳以上の高齢母体年齢では一卵性双胎率が低下し、36歳が閾値として存在します。凍結融解胚移植は一卵性双胎リスクを低下させます。
引用文献
Liu X, et al. J Assist Reprod Genet. 2021;38:79-83. doi: 10.1007/s10815-020-01988-z.
論文内容
単一胚移植を受けた女性において母体年齢が一卵性双胎率に影響を及ぼすかどうかを明らかにすることを目的とした後方視的コホート研究です。2014年から2018年の間に中国の西北婦女児童医院生殖補助医療センターで単一胚移植を受けた8459周期を対象に、一卵性双胎の発生率を分析しました。一卵性双胎妊娠は、単一胚移植周期において超音波検査で胎嚢内に複数の胎児心拍が確認された場合と定義しました。除外基準は、提供卵子周期、反復流産の既往、子宮病変、性別不一致双胎としました。一卵性双胎率に対する様々な生殖補助医療パラメータの影響を評価しました。
結果
研究期間中に合計8459周期が妊娠に至りました。これらの妊娠のうち8236例が単胎妊娠、223例が一卵性双胎でした(2.64%)。一卵性双胎では早産率、流産率、帝王切開率が高く(それぞれ40.81% vs. 5.37%, P<.001; 21.08% vs. 14.00%, P=.003; 68.75% vs. 60.92%, P=.036)、出生時体重と出産時在胎週数は低く短い傾向にありました(2.47±0.59 kg vs. 3.31±0.51 kg, P<.001; 36.90±2.72週 vs. 38.79±1.72週, P<.001)。単変量解析において、凍結融解胚移植では一卵性双胎のリスクが低下しました(OR, 0.72; 95%CI, 0.55-0.94; P=.016)。母体年齢と一卵性双胎の間には非線形な関係が観察されました。不妊期間、BMI、採卵個数、受精方法、不妊タイプ、不妊原因を調整した後、36歳未満では母体年齢と一卵性双胎の間に関連は認められませんでしたが(aOR, 1.01; 95%CI, 0.94-1.08; P=.349)、36歳以上の患者では母体年齢と一卵性双胎の間に負の関係が観察されました(aOR, 0.73; 95%CI, 0.52-0.91; P=.042)。母体年齢36歳が一卵性双胎率低下の閾値として同定されました。
私見
胚分裂の正確な発生原因は十分に証明されていませんが、体外受精手技や患者特性が一卵性双胎の発生に重要な役割を果たしている可能性が示唆されています。母体年齢と一卵性双胎率の関係については、複数の研究で相反する結果が報告されています。若年母体年齢が一卵性双胎率を増加させるとする研究(Kawachiya S, et al. Fertil Steril. 2011; Knopman JM, et al. Fertil Steril. 2014; Franasiak JM, et al. Fertil Steril. 2015)がある一方で、高齢母体年齢が一卵性双胎率を増加させるとする報告(Knopman J, et al. Fertil Steril. 2010)も存在します。また、母体年齢は一卵性双胎率に影響しないとする研究(Mateizel I, et al. Hum Reprod. 2016; Wu D, et al. Taiwan J Obstet Gynecol. 2014; Delrieu D, et al. Reprod BioMed Online. 2012)も報告されています。
様々なメカニズムが仮説として提唱されていますが、現在のところ、つよく支持される仮説はありません。
一番説明しやすいのは透明帯との関係ですが、こちらも着床前遺伝学的検査で一卵性双胎が増えていないことから、どこまで影響するかは不明な部分があります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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