はじめに
体外受精または顕微授精を予定している胞状卵胞数が多い女性は卵巣刺激に対する過剰な卵巣反応を起こし、治療キャンセル率の増加、卵巣過剰刺激症候群の発生、出生率の低下をもたらす可能性があります。卵巣予備能に基づくFSH減量投与が、治療を受ける女性における有効性と安全性を改善するかについてはコンセンサスが得られていません。OPTIMIST studyの卵巣予備能が高い女性へのFSH調整プロトコールについて紹介します。
ポイント
AFC>15の女性に対するFSH減量投与(100 IU/日)は標準投与(150 IU/日)と比較して累積出生率に差はありませんでした。軽度・中等度OHSSの発生率は減量群で低下しましたが、重度OHSSには差がなく、費用対効果も変わりませんでした。
引用文献
Simone C. Oudshoorn, et al. Hum Reprod. 2017. DOI: 10.1093/humrep/dex319.
論文内容
2011年5月から2014年5月に、AFC>15(オランダのトライアル登録NTR2657)の体外受精を希望する女性を対象としたオープンラベルの多施設ランダム化比較試験を実施しました。PCOS患者は除外されています。主要評価項目は無作為化後18ヵ月以内に達成された継続妊娠(妊娠方法は問わず)としました。副次的評価項目には卵巣過剰刺激症候群の発生と費用対効果を設定し、有効性と費用対効果の両方をintention-to-treat解析にて評価しました。
結果
255名の女性を1日100 IUのFSH投与群(減量群:最大25 IUの調整可能)に、266名の女性を1日150 IUのFSH投与群(標準群:最大50 IUの調整可能)に無作為に割り付けました。
累積出生率は標準群では69.5%(185/266)に対し、減量群では66.3%(169/255)でした(RR 0.95 [95%CI、0.85-1.07]、P = 0.423)。
いずれのグレードのOHSSの発現率もFSH量を減らすと低くなりましたが(5.2% vs. 11.8%、RR 0.44 [95%CI、0.28-0.71]、P = 0.001)、重度OHSSの発現率に差はありませんでした(1.3% vs. 1.1%、RR 1.25 [95%CI、0.38-4.07]、P = 0.728)。
今回の減量(150 IUを100 IU)は低コストではなかったため、費用対効果も変わりませんでした。
結論
体外受精・顕微授精を予定している卵巣刺激に対して高反応が予測される女性に対して、FSH投与量を減らしても出生率には影響しません。FSHの投与量を減らすと軽度および中等度のOHSSの発生率は低下しますが、重度OHSSには影響を与えませんでした。
私見
この論文はAFC>11をhigh responderと定義しているが、実際の対象群をみると平均女性年齢32歳前後、AFC 20個前後、AMH 3.1前後のPCOSを除く女性であり、日常診療で特に注意を要する対象群ではありません。
実際、100単位の場合の初回卵巣刺激のキャンセル率は24.1%(150単位では12.4%)で、その大半が卵胞発育不良という理由でした。また100単位での回収卵子数は8.8個、150単位では13.2個であり、重症OHSSリスクが変わらないとなると、100単位に落とす選択肢を提示する必要性は低いと考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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