体外受精

2021.01.20

胞状卵胞数で卵巣刺激を決めた後、AMHでさらに微調整したら体外受精結果は改善する?( Hum Reprod. 2017)

はじめに

体外受精の際に調節卵巣刺激を行うと、しばしば卵巣反応が悪く妊娠率や出生率が低下したり、卵巣反応が過剰となりOHSSリスクを高めることとも関連します。つまり卵巣刺激では、回収卵子数を最適化することが重要です。
AMHおよびAFCの両方が卵巣反応の良好な予測因子であることは、多数の観察研究(Nelsonら. 2007, 2009, 2015; Brodinら. 2015)およびシステマティックレビュー(La Marcaら. 2010; Broeら. 2013; La Marca and Sunkara. 2014; Iliodromiti ら. 2015)から確立されています。
AMHとAFCの両方が卵巣予備能の指標として知られていますが、最適な回収卵子数が採れるかどうか確認した無作為化試験はほとんどありません。
AFC、女性年齢、BMIなどで卵巣刺激のFSH投与量を決めた後にAMHで投与量を微調整しても、結果はあまり変わらないという論文をご紹介します。

ポイント

AFC、年齢、BMIで卵巣刺激量を決定後、AMHによる微調整を行っても、至適卵子回収数(5-12個)の達成率、OHSS発症率、出生率に有意差は認められませんでした。AMHによる追加調整は卵巣刺激の成績改善に寄与しませんでした。

引用文献

Å Magnusson, et al. Hum Reprod. 2017. DOI: 10.1093/humrep/dex012

論文内容

出産につながる最適な卵子数は、5-15個の卵子であることが分かっています(van der Gaastら. 2006;McAveyら. 2011;Jiら. 2013)。最適な卵子回収数を決定する際に、有効性と安全性のバランスとして5〜12個の回収卵子数(Chen ら. 2015)と定義し、胞状卵胞数(AFC)で卵巣刺激を決めた後、AMHでさらに微調整したら体外受精結果は改善するかどうか検討しました。
スウェーデンの大学病院で実施された、前向き、無作為化、対照、単一施設での研究です。2013年1月から2016年5月までの間に、最初の体外受精治療を開始した308名の患者(18歳以上40歳未満の女性で、BMIが18.0以上35.0kg/m²未満で、標準的な体外受精が計画されている最初の体外受精サイクルを開始した名が対象)を、患者の割り付けを隠したコンピュータによる無作為化プログラムを用いて、1:1の割合で、ホルモンの開始用量を決定するための2つの用量アルゴリズム、AMH、AFC、年齢、BMIを含むアルゴリズム(AMHあり群)、またはAFC、年齢、BMIのみを含むアルゴリズム(AMHなし群)のうちの1つに無作為に割り付けました。
本研究は患者と治療担当医の盲検化を行いました。
すべての患者にロング法(リコンビナントFSH)にて卵巣刺激しオビドレル®でトリガーを実施しています。患者は、アルゴリズムに従って、75、100、150、225、または300 IUのリコンビナントFSH開始用量を決定し、AMHあり群では追加して値が高い(>2.95 ng/mL)群では、rFSHを1段階減らし、低い(<1.55 ng/mL)群では、投与量を1段階増やしました。最も低い開始用量は75 IU、最も高い用量は300 IUとしました。

結果

目標卵子数が回収された患者の割合は、AMHあり群 81/152(53.3%):AMHなし群 96/155(61.9%)でした(P = 0.16、差:-8.6、95%CI:-20.3、3.0)。
反応不良(5個未満)の周期は、AMHあり群 39/152(25.7%):AMHなし群 17/155(11.0%)(P < 0.01)、卵巣反応不良のために中止された周期は、AMHあり群 7/152(4.6%):AMHなし群 4/155(2.6%)で差はありませんでした(P = 0.52)。
過剰な反応(12個以上の卵子)は、AMH群 32/152(21.1%):AMHなし群 42/155(27.1%)の患者に認められました(P = 0.27)。
中等度または重度のOHSSは、AMH群 5/152(3.3%):AMHなし群6/155(3.9%)(P = 1.0)。
1周期あたりの出生率は48/152(31.6%):AMHなし群 42/155(27.1%)でした。
AMHによる微調整は、目標とする回収卵子数である5〜12卵子の割合を変化させず、卵巣反応不良による卵巣過剰刺激症候群(OHSS)やキャンセルされたサイクルの割合を減少しませんでした。

私見

AMHを用いた卵巣刺激の調整の論文はたくさんあります。卵巣予備能を事前に知ることにより卵巣刺激の調整を検討しますが、出生率までの差がないというのが一般的です。この論文のポイントは女性年齢32歳前後の平均AFCが21個くらいある女性に対して卵巣刺激の投与量を決定した後にAMH(1.55ng/ml未満の24%の患者には75単位投与数アップ、2.95ng/ml以上の50%の患者には75単位投与数ダウン)でより精密に至適化し5〜12個の回収卵子数に調整可能かという論文ですので、あくまでAMHを知ってもAFC情報さえあれば妊娠率が変わらないということを示唆した論文ではありません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# OHSS

# 胞状卵胞数(AFC)

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# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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