不育症

2021.03.22

体外受精が周産期予後に及ぼす影響について(BMC Pregnancy Childbirth. 2019)

はじめに

体外受精は、不妊で苦しむ女性にとって赤ちゃんを授かるために必要な治療となります。多くの女性が救われる一方、体外受精を行う際に自分の身体的・精神的・金銭的・時間的な問題以外に胎児への影響を気にされる方が数多くいらっしゃいます。国内全国規模の大規模コホート研究であるエコチル調査の結果をご紹介させていただきます。 

ポイント

ART妊娠では自然妊娠と比較して前置胎盤、癒着胎盤、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、輸血、ICU管理、早産のリスクが有意に上昇することが、日本の大規模コホート研究で明らかになりました。周産期合併症のリスクについて、治療前に十分な情報提供を行うことが重要です。

引用文献

Nagata C, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2019;19(1):77. DOI: 10.1186/s12884-019-2213-y. 

論文内容

対象と方法 
日本の環境省が実施するエコチル調査(全国規模の出生コホート研究であるJapan Environment and Children’s Study(JECS))の一環として後方視的に実施しました。 
生殖補助医療(ART)によって妊娠した場合と自然妊娠した場合の母体・周産期合併症および妊娠・出産における有害な転帰のリスクを評価・比較することを目的としました。 
母体・周産期の合併症や有害な転帰のリスクを、潜在的交絡因子をコントロールしたロジスティック回帰と一般化推定方程式を用いて、妊娠の形態(自然妊娠、ARTを行わない排卵誘発、IVF、ICSI)で評価しました。 

結果

自然妊娠した女性90,506名、ARTを行わずに卵巣刺激を実施し妊娠した女性3,939名、IVF妊娠女性1,476名、ICSI妊娠女性1,671名を対象としました。 
自然妊娠の女性と比較して、IVF妊娠女性は、前置胎盤(調整OR 2.90 [95% CI 1.94, 4.34])、癒着胎盤(6.85 [3.88, 12.13])、妊娠高血圧症候群(1.40 [1.10, 1.78])のリスクが高い結果となりました。 
ICSI妊娠女性は常位胎盤早期剥離(2.16 [1.20, 3.88])、前置胎盤(2.01 [1.29, 3.13])、癒着胎盤(7.81 [4.56, 13.38])のリスクが高くなりました。 
ART妊娠女性は、交絡因子を考慮しても、輸血(IVF:3.85 [2.52, 5.88]、ICSI:3.76 [2.49, 5.66])およびICU入室(IVF:2.58 [1.11, 6.01]、ICSI:3.45 [1.68, 7.06])のリスクが高くなりました。 
また、ART妊娠した新生児は、早産のリスクが高い傾向がありました(IVF妊娠:1.42 [1.13, 1.78]、ICSI妊娠:1.31 [1.05, 1.64])。 
ART妊娠女性では、自然妊娠群と比べて前置胎盤、癒着胎盤、帝王切開、輸血、ICU管理、早産のリスクが高くなりました。周産期施設が患者に十分な情報提供をすることが重要です。 

私見

体外受精妊娠後、そして高齢女性の周産期合併症はとても高く、当院でもハイリスク妊娠と判断した場合は初めから周産期センターにご紹介するようにしています。 
当院での周産期合併症は妊娠糖尿病>妊娠高血圧症候群>胎盤位置異常の順番となっています。妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群はエコチル調査の調整後のオッズ比では体外受精妊娠でのリスク上昇は認めていません。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 周産期合併症

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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