一般不妊

2021.03.27

卵管手術におけるcommittee opinion (Fertil Steril. 2021:その2)

はじめに

卵管手術におけるcommittee opinion (Fertil Steril. 2021:その1)では卵管カニュレーション(FT)の対象となる近位部閉塞について解説しました。その2では、主に遠位部閉塞に伴う卵管留水症治療と避妊目的の卵管結紮術後の再吻合術について解説します。主にどのような手術を行うべきか、体外受精を優先すべきかどうかなどが焦点になります。 

ポイント

卵管遠位部閉塞・卵管留水症に対する治療法の選択は、疾患の程度、年齢、男性因子などを考慮して決定します。重度の卵管留水症では卵管切除術が体外受精の成績を改善させます。卵管結紮術後の再吻合術は、患者年齢や卵管の状態により体外受精との比較検討が必要です。

引用文献

Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.051. 

論文内容

③卵管遠位部疾患・卵管留水症に対する手術(卵管形成対照群) 
卵管遠位部疾患がある場合、卵管形成を行うか切除するかは、妊娠の可能性がどちらで高くなるかで決定していきます。卵管遠位部疾患には、卵管留水症、卵管采癒着、卵管周囲癒着などがあります。卵管留水症は完全に閉塞しているのに対し、卵管采癒着は癒着により開口部が狭窄しているだけのことが多くなります。両者とも、通常は子宮附属器炎が原因であるが、卵管周囲炎や過去の骨盤手術が原因となることもあります。 
卵管遠位部疾患に対する手術の予後良好な患者は、限定的な膜状の付属器周囲の癒着や、卵管の拡張は軽度(3cm未満)、卵管壁は薄くて柔軟性があり、粘膜の襞が保存されていて、卵管内膜の色が正常である場合と報告されています。卵管周囲の癒着は、物理的に卵子と精子の出会いを障害することにより妊娠成績を低下させます。 
卵管周囲の癒着を診断された147名の患者を対象とした報告では、開腹手術での癒着剥離12ヶ月後の累積妊娠率が40%であったのに対し、未治療群では8%であったと報告されており、卵管周囲癒着の除去には一定の効果があるとされています。 
腹腔鏡下の卵管留水症形成術もしくはfimbrial phimosis形成術は卵管留水症を開口し、卵管の漿膜面を裏返しにして安全に縫合などを行っていきます。 
手術後の妊娠率は、卵管疾患の程度に依存します。軽度の卵管留水症形成術の子宮内妊娠率および子宮外妊娠率はそれぞれ58〜77%、2〜8%、重症の卵管留水症形成術の子宮内妊娠率および子宮外妊娠率はそれぞれ0〜22%、0〜17%とされています。卵管炎後に生じた不可逆性の卵管留水症かどうかが手術後の妊娠率と相関があると報告されています。 
これらの手術は妊娠成績が同等であり低侵襲であるという理由から腹腔鏡手術を行うべきとされています。女性の年齢が高い場合や、男性の精液所見がシビアな場合などは体外受精を検討すべきですが、卵管留水症形成術の選択肢も提示するべきとされています。卵管留水症が重度の場合、近位部と遠位部の両方が閉塞している場合、卵管形成術は適切ではないとされています。重度の卵管留水症患者には卵管切除後に体外受精を行うことが望ましいため、手術に入る前に卵管の状態に応じて最も適切な処置を行うことができるように、卵管留水症形成術と切除もしくは結紮術の両方を説明し同意を得るべきとされています。また卵管形成後にも再閉塞などにより追加外科的手術が必要になる旨も伝える必要があります。 

④遠位卵管閉塞症・卵管留水症に対する手術(卵管切除・吸引術・硬化療法対照群) 
卵管遠位部疾患に対する手術の予後不良な患者は、卵管周囲に強い癒着があり、卵管は大きく拡張し、卵管壁は厚く線維化しており、内腔粘膜は薄く、繊毛が欠如しているような場合です。予後不良の卵管留水症は体外受精成績に悪影響を及ぼすため、腹腔鏡下卵管切除術が適応となります。 
2つのメタアナリシスによると、妊娠率、着床率、分娩率は、卵管留水症があると約50%低下することが報告されています。 
理由として以下が挙げられます。 

  • 胚が子宮腔内から卵管留水症の内腔液により物理的に洗い流されてしまうこと 
  • 子宮内膜の受容性が低下すること 
  • 留水症内腔液が直接的な胚毒性があること 

無作為化試験では、腹腔鏡下卵管切除術を受けた女性の体外受精成績を比較した場合、卵管切除術の必要がない女性と同程度の妊娠率と出生率まで改善することが報告されています。片側性の卵管留水症であっても、体外受精による妊娠率は低いことが報告されており、片側卵管切除術で体外受精成績が改善しています。片側性の卵管留水症の場合、片側卵管切除術を行うと自然妊娠できる可能性も生まれ、過去の報告では平均不妊期間3年の25名中、術後22名(88%)が術後平均5.6ヵ月以内に自然妊娠し、子宮外妊娠はなかったと報告されています。 
卵管切除・結紮術は、術後の卵巣予備能低下の原因とされていますが、子宮外妊娠に対する卵管切除術の前後で体外受精を行った研究では、使用したゴナドトロピン量や期間、エストラジオールのピーク値に有意な差は認められないという報告、回収卵子数や胚の質も差が認められないという報告があります。 
卵管留水症がある患者が近位卵管閉塞を起こしている場合(近位卵管結紮も同様)は卵管切除と同様の効果があることが無作為化試験でもわかっています。ただし、卵管留水症がある状態で卵管近位部が閉塞していると卵管留水症内腔液が子宮内腔へ排出されなくなるため、卵管留水症がどんどん大きくなる可能性は否定できません。腹腔鏡手術で近位卵管結紮を行う場合は卵管留水症の開口術も広く行うことを検討するのが好ましいとされます。 
卵管留水症に対する手術の身体的、経済的、精神的負担を避けるために最近では卵管留水症吸引や卵管硬化療法などにより卵管留水症の悪影響を軽減する低侵襲な方法が注目されています。 
採卵時に超音波ガイド下で卵管留水症内腔液を吸引する方法は、無処置群との無作為化試験では、生化学的妊娠率は卵管留水症吸引群が有意に高く、臨床的妊娠率でも有意差まではつきませんでしたが高い傾向がありました(それぞれ31.3%[10/32]対17.6%[6/34]、相対リスク1.8{0.8, 4.3}, P=0.20])。 
しかし、卵管疾患に対する体外受精胚移植598サイクルを評価したレトロスペクティブ研究では、刺激中に卵管留水症をみとめ採卵時に卵管留水症吸引を行った群には効果があったが以前よりあった群には効果を認めませんでした。 
卵管留水症を単純に吸引するだけだと再発リスクが高いことから、エタノールを注入して卵管を収縮・硬化・分泌能を低下させる硬化療法が、卵管留水症の内腔液の再発防止に役立つと考えられています。10件の研究のメタアナリシスでは、卵管留水症吸引術と硬化術は同程度の卵管留水症再発率(約20〜30%)でしたが、生殖医療成績に関して比較すると卵管切除と硬化療法は同等の成績であり、留水症吸引術は臨床妊娠率が低く流産率が高くなりました。これらのことから重度の卵管留水症に対する治療は卵管切除術>硬化療法>卵管留水症吸引術>未介入と考えられます。 

⑤避妊手術(卵管結紮術)後の卵管再吻合術について 
卵管結紮術を受けたことのある女性が妊娠を希望する場合、卵管吻合術と体外受精の比較については、個々の患者に応じて検討する必要があります。 
患者の年齢、パートナーの精液の質、避妊手術の手法、費用、成功の可能性、生殖に関する嗜好などは、意思決定に不可欠な要素となります。避妊目的で卵管結紮術を行った女性は、卵管不妊の女性と異なり、不妊要素が他に少ないことが多く再吻合術後の自然妊娠の確率も高い傾向になります。 
卵管結紮を元に戻すには、近位部と遠位部の閉塞した端を開口し、拡大鏡とマイクロサージェリー技術を用いて細いモノフィラメントの縫合糸で吻合します。吻合には通常、筋層と漿膜を縫合する2層法が用いられます。 
ケースシリーズやレトロスペクティブコホート研究では、マイクロサージェリー、腹腔鏡、ロボットによる卵管切除術の妊娠率は同等であることが示されています。2017年に行われたシステマティックレビューでは、これらの術式の累積妊娠率は65%〜68%であり、成功率は患者の年齢と最も有意に関連していました。また、避妊時の卵管結紮の方法(リングかクリップか結紮か切除か凝固かなど)も再吻合後の妊娠成績に影響を与えるようです。 
成功を予測すると考えられている他因子には、最終的な卵管長と卵管の再吻合部位の状態などがあります。担当する外科医は、最終的な卵管長が4cm未満になると予測される場合、卵管と卵巣の著しい癒着がある場合、進行した子宮内膜症がある場合、シビアな男性不妊症がある場合には再吻合手術を行うことを躊躇することが予想されます。 
どちらにせよ、再吻合手術後6ヶ月以内に妊娠しない場合は、卵管開存性の評価を行うことが望ましいとされています。 
再吻合手術と体外受精を比較検討する場合、卵管切除術後の子宮外妊娠の増加は重要な検討課題です。卵管再吻合手術後の子宮外妊娠率は、体外受精の1.4%に対し、4〜8%と報告されています。卵管再吻合手術後に妊娠した場合は子宮内妊娠かどうかをモニタリングする必要があります。 

私見

当院の場合、卵管留水症の卵管切除・近位部結紮を行うか、卵管留水症形成術を行うか、卵管留水症吸引術を行うかは事前に患者様と相談し決めることが多いです。 
避妊手術(卵管結紮術)後の卵管再吻合術は経験がないため詳細なコメントは控えます。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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