はじめに
内膜ポリープをどの大きさまで手術するのかは難しい問題です。そして、明確な結論は出ていません。今回のレビューでも同様の課題が残されています。
ポイント
- 内膜ポリープ手術後は次の周期から移植可能(内膜厚次第)
- 子宮内癒着を生じる可能性がある子宮鏡手術の後は、4週間後にセカンドルック子宮鏡検査が望ましい
引用文献
Marie Carbonnel, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.12.003.
論文内容
①子宮内膜ポリープ
反復流産に関連する子宮内膜ポリープの有病率は、1.6〜6%程度とされています。
子宮内膜ポリープは、大きさが数ミリから数センチ、形状は無柄(茎がないタイプ)または有茎性、そして数も単発から多発タイプまでさまざまな形態を示す、内膜腺・間質・血管・線維組織を含む限局性の良性腫瘍です。現在のところ、反復流産との明確な関連性は示されていません。
1年間経過観察した場合、最大で27%の症例で自然治癒することがあるとされています。子宮内膜ポリープは、物理的な障害以外に分子学的メカニズム(グリコデリン、アロマターゼ、炎症性マーカーの増加、HOXA-10またはHOXA-11 mRNAの低下)によって生殖成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
診断には超音波検査が効率的ですが、ソノヒステログラフィーや子宮鏡検査では、超音波検査では見つけられない子宮内膜異常所見が20〜30%見つかるとされています。
反復流産に対する子宮内膜ポリープの管理方法として、ESHREとASRMでは、反復流産のリスクを減らすために子宮鏡下内膜ポリープ切除術を推奨する十分な根拠はないとしています。しかし、前向き研究はほぼありませんが、子宮鏡下内膜ポリープ切除術は人工授精・体外受精の治療成績を改善し、妊娠を希望する患者名に内膜ポリープがあった場合、手術を推奨すべきであることに変わりはありません。
(Lieng M, et al. Acta Obstet Gynecol Scand. 2010)
(Zhang H, et al. J Minim Invasive Gynecol. 2019)
手術後月経発来回数別の胚移植成績に関する報告がされています。
487名の35歳前後の女性を対象とした無作為化されていない後ろ向き研究では、手術した翌周期241名(49.5%)、翌々周期172名(35.3%)、それ以降74名(15.2%)で採卵・新鮮胚移植(約1.8個)を実施した場合、着床率(42.4%、41.2%、42.1%)、臨床妊娠率(48.5%、48.3%、48.6%)、自然流産率(4.56%、4.65%、4.05%)、生児出生率(44.0%、43.6%、44.6%)で、手術後の月経周期の発来回数別に成績は変わりませんでした。
(Nigel Pereira, et al. Fertil Steril. 2016.)
上記のような「内膜ポリープがあれば手術したほうが成績は良好」という結果も数多くありますが、質の高い研究が少なく、ポリープ管理指針として手術・待機療法などを推奨事項として示せる根拠は、現在のところありません。
②子宮腔癒着症(アッシャーマン症候群)
反復流産における子宮腔癒着症の有病率は、1.3〜9.6%と言われています。
子宮腔癒着症は、アッシャーマン症候群とも呼ばれ、子宮腔または子宮頸部の対向壁から発生する線維性組織により、子宮内膜粘膜の質を変化させてしまいます。子宮内掻爬、感染症、子宮内手術、胎盤遺残などの産後合併症に見られます。子宮内癒着は、内膜ポリープ切除、子宮筋腫切除、癒着除去などの子宮鏡手術後に10〜30%起こるとされています。子宮腔癒着症は、流産後の女性の5名に1名が罹患する可能性が示唆されており、反復流産や頸管拡張・掻爬術もリスク因子とされています。中等度から重度の子宮腔癒着は、生殖治療成績に大きな影響を与え、妊娠や産科的合併症を引き起こしやすくなります。また、子宮内膜発育も不十分なため流産とも関連するといわれています。
子宮鏡検査は標準検査となります。超音波検査はソノヒステログラフィーを行わない限り、診断をつけることは難しいです。
反復流産に対する子宮腔癒着症の管理・再発防止のための介入方法は、コンセンサスが得られていません。軽度の膜性癒着は子宮鏡検査の過程で剥離できますが、重度の癒着剥離は全身麻酔下にコールドナイフやバイポーラ/モノポーラを用いて電気切除を行うことが望ましいです。重度の癒着は生殖成績と強い相関があり再発率も高いため、術後約4週間後にセカンドルックの子宮鏡検査を行い、癒着が膜性のうちに剥離することが推奨されます。子宮内癒着再発のリスクがある子宮鏡手術(筋腫、ポリープ、または子宮内癒着の切除)を受けるすべての女性に推奨されるべきとされています。
ESHREとASRMのガイドラインでは、反復流産女性の子宮腔癒着症の外科的切除の有益性を示す十分な証拠はないと結論づけていますが、軽度および中等度の癒着の治療は、その後の生殖治療成績に良い結果をもたらす可能性が高いとされています。
私見
ESHREやASRMのガイドラインでは、内膜ポリープや子宮内癒着に対する手術の推奨に十分なエビデンスがないとされていますが、実臨床では多くの医師が積極的に介入しています。このエビデンスと臨床実践のギャップは、質の高いRCTが不足している一方で、観察研究では一貫して良好な結果が示されていることに起因します。
日本の生殖医療ガイドライン2025および不育症管理に関する提言2025は、国際的エビデンスと日本の医療環境を適切にバランスさせた内容となっています。実臨床では、これらのガイドラインを基本としつつ、患者の年齢・既往流産回数・ART歴などを総合的に評価した個別化アプローチが必要です。RCTによる高いエビデンスレベルの確立が望まれますが、倫理的問題や患者リクルートメントの困難さから実施は容易ではありません。現時点では、生物学的妥当性と観察研究の結果を踏まえた合理的な臨床判断が求められます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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