不育症

2021.05.12

反復流産(不育症)と先天性子宮形態異常との関連(Fertil Steril. 2021)

はじめに

子宮奇形は最近では先天性子宮形態異常と表現されることもあります。先天性子宮形態異常を有する女性では、反復流産のリスクが高くなります。本稿では、子宮奇形と反復流産との関係、診断方法、および治療方針についてご紹介いたします。

ポイント

先天性子宮形態異常、特に中隔子宮は反復流産のリスク因子となります。診断には3D経腟超音波検査が最も有用で、子宮中隔切除術の有効性については現在も議論が続いています。適切な症例選択と十分な説明のもとで治療方針を決定することが重要です。

引用文献

Marie Carbonnelら. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.12.003.

論文内容

子宮奇形と反復流産

子宮奇形のほとんどは胎生期のミュラー管の発生異常で起こることが一般的です。最も広く使われている分類は、ASRM(アメリカ生殖医学会)とESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)/ESGE(ヨーロッパ内視鏡学会)の提唱した2分類が主に使用されています。
子宮内腔側に突出した部分の凹みの程度によって、中隔子宮と弓状子宮の2つの状態が定義されています(ASRM分類のみ。ESHRE/ESGE分類では弓状子宮という概念がありません)。
妊娠初期の発育を阻害する病態生理は完全には解明されていません。仮説として、子宮中隔は繊維性結合組織よりなっており血管分布が少ないことに起因すると考えられています。さらに、中隔組織はエストラジオールとプロゲステロンの変化に影響を受けにくかったり、子宮の収縮性を変化させたり、VEGF受容体が欠如している可能性もあります。

診断方法

先天性奇形の存在は、従来の経腟超音波検査で疑うことができますが、子宮奇形の検出感度は60〜80%と低い傾向にあります。3D経腟超音波検査は診断感度と精度が最も高く、特に中隔子宮と双角子宮を区別するのに適しています。
子宮鏡検査と腹腔鏡検査を組み合わせることが、子宮内腔の突出と外部の陥凹を同時に見ることができるため、子宮奇形を診断するためのゴールドスタンダードとなっています。しかし、侵襲的なため、その他の手段を使って代替診断を行っていきます。
子宮卵管造影は放射線被曝もあり、子宮奇形の診断にはあまり有効ではないとされています。超音波やソノヒステログラフィーの上で補助的検査として行うことが一般的です。
子宮鏡検査も単独では子宮奇形の適切な診断、治療法を決定することは難しいとされています。
ソノヒステログラフィーでは、子宮腔の内部の輪郭を描出することに適しています。
骨盤内MRIは、複雑な子宮奇形の診断には役に立ちますが、必ずしも日常的に行う必要はないとされています。ESHRE/ESGE分類でU3およびU5の奇形は腎臓および尿路に奇形があることもあるので注意を要します。

先天性子宮形態異常の管理方法

子宮中隔切除は安全で効果的であるとされていますが、この判断は後方視的な試験のみに基づいています。
Venetisらのメタ解析では、手術群で流産リスクが減少しています(RR 0.37; 95%CI 0.25-0.55)(Venetis CAら. Reprod Biomed Online. 2014)。しかし最近の257名を対象としたコホート研究では、中隔切除は妊娠予後を改善しなかったとしています(Rikkenら. Hum Reprod. 2020)。
実際、反復流産の既往がある女性を対象に、中隔切除と切除しないことを比較した国際的なRCT(TRUST試験)が現在進行中です。
学会の位置付けとしては以下のようになっています。

ASRM(2016)
いくつかの限定した研究で、中隔切除は流産率を減少させ、不育症既往のある患者の出生率を改善する(Grade C)。

ESHRE(2017)
中隔切除は臨床試験として評価をされるべきである(推奨グレードなし)。単頸双角子宮の形成術は推奨しない(strong)。

RCOG
手術の有用性を支持する十分なエビデンスはない。

産婦人科内視鏡手術ガイドライン2019(国内)
適切な症例選択のもとで、中隔子宮に対する子宮鏡手術を開腹手術に並ぶ選択肢として推奨する(推奨グレード2)。
中隔切除には子宮穿孔、術後子宮腔癒着、頸部裂傷、帝王切開率などの術後合併症があることも認識する必要があります。弓状子宮、双角子宮、単角子宮に対する外科的治療の有益性を示す証拠は示されていません。反復流産女性における子宮形成障害子宮(クラスU1)に対する子宮拡大形成術は今後の争点となっていますが、現在のところ、国際的なガイドラインでは子宮形成障害子宮(クラスU1)の外科的治療は推奨されていません。

私見

当院の方針をしては、子宮形態異常が見つかった段階で不妊症・不育症との関連を説明を行います。そのうえで、先に手術をしないで不妊治療を開始する場合が多いです。ただし、反復着床不全もしくは不育症と診断した場合には手術を行い、妊娠・出産に至った症例が複数例います。
「不全中隔子宮に対し腹腔鏡観察下に子宮鏡下中隔切除術を施行した5例」として、大内久美先生が報告してくれています(日本受精着床学会雑誌 41 (2) 315-321, 2024.)。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 手術

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# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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