はじめに
不育症は「流産あるいは死産が2回以上ある状態」と定義され、生児の有無は問わず、流産または死産が連続していなくてもよいとされます。日本では生殖年齢で妊娠歴のある女性における不育症患者の頻度は約5%、習慣流産(3回以上)は約1%と推定されており、全国では35万〜50万人程度の不育症女性が存在すると考えられています。今回、令和7年5月に改訂された「不育症管理に関する提言2025」から、不育症の概念、頻度、リスク因子について最新の知見をご紹介いたします。
ポイント
不育症は流産・死産2回以上の状態で、日本では約5%の頻度であり、リスク因子として子宮形態異常、甲状腺機能異常、夫婦染色体構造異常、抗リン脂質抗体陽性などが挙げられますが、約65%はリスク因子不明です。
引用文献
「不育症管理に関する提言」改訂委員会. 不育症管理に関する提言2025. 令和6年度こども家庭行政推進調査事業費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業. 2025.
まとめ
本提言は、2011年の初版から段階的に改訂され、2025年版では最新4年間の新規知見を基に大幅な改訂が加えられました。
不育症の定義について
日本産科婦人科学会は不育症を「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、妊娠は成立するが流産や死産を繰り返して生児が得られない状態」と定義しています。本提言では、生児の有無は問わず既往妊娠で流産あるいは死産の既往が2回以上ある状態を不育症と定義しています。流産または死産が連続していなくてもよく、異所性妊娠や胞状奇胎は流産回数に含めません。生化学的妊娠(流産)も流産回数には算定しませんが、3回以上反復する場合を反復生化学的妊娠(流産)として不育症に準じた原因検索を行うことを推奨しています。
不育症の頻度について
岡崎コホート研究では、2回以上の流産既往は4.2%(105/2503)、3回以上の流産既往は0.88%(22/2503)でした。より大規模な「こどもの健康と環境に関する全国調査」では、94568人の女性のうち、2回以上流死産歴のある女性は4698人(4.96%)、3回以上は1065人(1.13%)でした。反復・習慣流産患者の約80%は生産既往がありました。 ARTデータベース(2022年)では、ARTを受けた女性の中で2回以上の流産歴のある女性の頻度は8.76%、3回以上の流産歴の女性は2.98%でした。これらのデータを総合すると、本邦の不育症の頻度は約5%、習慣流産の頻度は約1%と考えられます。 不育症患者の実数推定として、2020年の20〜44歳までの有配偶者女性数883万人のうち、不妊症を除いた有配偶者女性が妊娠経験者とすると、2回以上の流産経験者(5%)は約35.5万人〜40万人と推定されます。別の推計方法では、2022年の出生数77万人のデータから、不育症女性の人数は34万人から最大48.6万人と推定されます。
リスク因子について
AMED研究班の多施設共同研究データ(2008-2010年)では、不育症のリスク因子として以下が報告されています。
| リスク因子 | 日本 | 海外 |
|---|---|---|
| 子宮形態異常 | 7.9% | 12.6-18.2% |
| 甲状腺機能異常 | 9.5% | 7.2% |
| 亢進症 | 1.6% | – |
| 低下症 | 7.9% | 4.1% |
| 夫婦染色体構造異常 | 3.7% | 3.2-10.8% |
| 均衡型相互転座 | 3.0% | 1.5% |
| Robertson型転座 | 0.7% | 0.3% |
| 抗リン脂質抗体陽性 | 8.7% | 15.0% |
| 第XII因子欠乏 | 7.6% | 7.4-15.0% |
| プロテインS欠乏 | 4.3% | 3.5% |
| リスク因子不明 | 65.2% | 43.0% |
胎児染色体の異数性は流産組織の60%に認められ、流産の原因としては胎児染色体異数性が最も多いとされています。原因不明不育症の中には、胚の染色体異常を繰り返している不育症が少なからず存在すると考えられています。
問診と対応について
問診では以下の項目が重要です:
- 年齢:女性の年齢が35歳以上からは流産率が増加し、特に40歳以上では流産率が40〜50%と急激に増加します。
- 既往妊娠:流産既往回数が増すにつれ、次回妊娠での生児獲得率は減少します。生化学的妊娠(流産)、胎児発育不全・死産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離などの既往がある場合は、抗リン脂質抗体症候群等が存在している可能性があります。
- 生殖補助医療の既往:生殖補助医療や反復着床不全、着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR)の実施の有無についても問診することが望ましいです。
- 身長・体重・BMI:女性の肥満は流産のみならず、妊娠合併症の増加にも繋がるため、肥満の場合、食事指導や生活指導を行います。
- 喫煙歴、アルコール摂取歴:喫煙ならびに過度のアルコール摂取は、共に生児獲得率を低下させます。1週間に2〜4回以上の飲酒は流産を増加させるとの報告があります。
- カフェイン摂取:カフェイン摂取300mg/day以上(コーヒー1日3杯以上)で流産が増加するとの報告もありますが、エビデンスとはなっていません。
- 夫の情報:男性の年齢、生活習慣、身長・体重・BMI、嗜好品などについても把握しておくことが望ましいです。20週未満の流産は、25〜29歳に比較して、40〜44歳では23%増え、45歳以上では43%増えるとされています。男性の不適切な生活習慣、肥満、喫煙ならびに過度のアルコール摂取などが精子に影響すると考えられています。
| 20-24歳 | 25-29歳 | 30-34歳 | 35-39歳 | 40歳- | |
|---|---|---|---|---|---|
| 3回 | 1.28 (0.78–2.11) | 1.50 (1.15–1.96) | reference | 0.81 (0.60–1.10) | 0.48 (0.26–0.89) |
| 4回 | 1.93 (1.20–3.11) | 0.99 (0.72–1.36) | 0.95 (0.72–1.26) | 0.67 (0.47–0.95) | 0.88 (0.46–1.68) |
| 5回 | 0.48 (0.18–1.29) | 1.51 (0.92–2.48) | 0.79 (0.53–1.18) | 0.76 (0.50–1.17) | 0.32 (0.10–1.00) |
| 6回以上 | 予測できず | 0.80 (0.49–1.30) | 0.55 (0.34–0.88) | 0.51 (0.29–0.91) | 予測できず |
初診時の年齢と過去の流産回数による初診後の生児出産のハザード比(95%信頼区間)について
私見
今後は、リスク因子不明例に対する新たなバイオマーカーの開発や、生化学的妊娠(流産)の病的意義についての研究の進展が期待されます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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