はじめに
卵巣刺激(GnRHアンタゴニスト法)を行っていくとき、採血でフォローできる早発LHサージ、早期黄体化はちゃんとメカニズムを理解していることが必要です。(特に早期黄体化は様々な角度から議論されていて、卵子の染色体異常とは関係がなさそうです。卵の質を考えた時、卵子の染色体だけではなく細胞質の状態も意識しなくてはいけません。細胞質に負荷をかけてしまう卵子凍結を行ったドナーエッグで早期黄体化がどう影響するのか示した論文を紹介します。
GnRHアンタゴニスト法における早発LHサージ(Reprod Biol Endocrinol. 2013.)
GnRHアンタゴニスト法における早期黄体化(J Assist Reprod Genet. 2019)
排卵誘発時のプロゲステロンの上昇は胚質に影響する?(J Assist Reprod Genet. 2021)
ポイント
卵子提供における卵巣刺激時のプロゲステロン上昇は、胚の質や出生率に影響を与えませんでした。プロゲステロン上昇は子宮内膜に不利な状況を作りますが、卵子の質そのものは低下させないようです。
引用文献
Racca A, et al. Hum Reprod. 2020. DOI: 10.1093/humrep/dez238.
論文内容
卵子提供(ドナーエッグ)の際、卵巣刺激を行い早期黄体化が起こると胚の質低下、レシピエントの出生率に差を与えるかどうか調査しました。2010年から2017年の間にブリュッセルの大学病院で行われた卵子提供のためのGnRHアンタゴニスト法を用いた刺激を行った後方視的な研究です。
397周期を対象としドナーもレシピエントも一回ずつの症例を対象としています。排卵誘発日の血清P(プロゲステロン)値1.5ng/mLをカットオフ値として層別化しました。主要評価項目は3日目の良好胚率、副次評価項目は妊娠24週以降の生児分娩率、累積妊娠率としました。
結果
397周期中、血清P≦1.5ng/mL群が314周期(79%)、血清P>1.5ng/mL群が83周期(20.9%)でした。卵子提供者の平均年齢は、P≦1.5ng/mL群およびP>1.5ng/mLでそれぞれ31.4±4.7歳、29.9±4.5歳でした(P = 0.017)。平均回収卵子数は、P>1.5ng/mLで16.6±10.6個、P≦1.5ng/mL群で11.5±6.9個と、P>1.5ng/mLで有意に多くなりました(P < 0.001)。
3日目の受精胚を「優」「良」「中」「劣」と分けた時に、全体の胚数(割球が4個でフラグメンテーションが50%未満)、「良」以上の胚数はP>1.5ng/mLで有意に多くなりましたが、成熟率・受精率・day3の「優」「良」の胚率、有効胚利用率には差を認めませんでした。プロゲステロン値、ドナーの女性年齢、回収卵子数、良好胚率を交絡因子として多変量回帰分析を行いましたが、血清P>1.5ng/mLは3日目の良好胚率、累積妊娠率に影響を与えませんでした。
私見
排卵誘発時のプロゲステロン値の上昇は、
①子宮内膜には新鮮胚に不利な状況を作る
②卵子の質(異数性・卵細胞質)の低下は起こさない
という結論で良いような気がします。
また、排卵誘発時のプロゲステロン上昇を早期黄体化(premature luteinization)という表現からLFEP (late follicular phase elevated progesterone)という表現に変えているのもポイントだと思います。卵巣刺激時のプロゲステロン上昇は決して黄体化を起こしているわけではないからです。早期黄体化の指標としてプロゲステロン/エストラジオール比(P4 ∗ 1000/E2)やプロゲステロン/発育卵胞数比でみている報告もありますので、総合的にプロゲステロン上昇をどのように評価するかが患者様・医療者双方にとって卵巣刺激の結果に有益な情報を与えるのではないかと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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