はじめに
いくつかの研究では、WHO基準値を超える精液パラメータ値では、妊娠確率が高まることが示されています(Guzickら, 2001、Slamaら, 2002、Herreraら, 2020)。Slamaらは精子濃度5,500万/mL、総精子数14,500万まで妊娠までの期間を早めることを示しています。不妊症カップルにおいて妊娠までの期間を早める総精子数、精子濃度、前進運動率、総前進運動精子数の閾値を調べた報告をご紹介いたします。
ポイント
総前進運動精子数5,000万以上で妊娠しやすさが向上し、1億〜1億5,000万まで妊娠率が増加しますが、それ以降はプラトーとなります。主要女性因子がなければ自然妊娠の閾値は2,000万とかんがえてよいかもしれません。
引用文献
Sorena Keihani, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab133.
論文内容
2002年から2017年までの不妊症男性に関する縦断的コホート研究(Subfertility Health and Assisted Reproduction and the Environment(SHARE)研究のデータとUtah Population Database(UPDB)のデータを統合)を使用し、初回の精液分析を行った6,061名の男性を研究対象とし、5年間のフォローアップデータを収集しました。体外受精や人工授精を用いて妊娠したカップルを除外した自然妊娠群(n=5,126)、重度の女性不妊因子を除いた自然妊娠群(n=3,753)の2つのサブグループも解析を行いました。Cox比例ハザードモデルを用いて、男性の年齢、最初の精液検査以前の子供の数、収入を調整する前後のハザード比(HR)と95%CIを報告しました。初回精液検査後5年以内に妊娠する可能性をregression tree法を用いて、総精子数、精子濃度、前進運動率、総前進運動精子数の閾値を算出し検討しました。
結果
妊娠までの期間の中央値は22カ月(95%CI:21〜23カ月)で3,957組(65%)のカップルが、最初の精液検査から5年以内に妊娠しました。全体のコホートでは、総前進運動精子数が5,000万以上の男性は、5年以内に子供をもうける可能性が高いことがわかりました。総前進運動精子数が5,000万以上の男性のパートナーは、総前進運動精子数が5,000万未満の男性と比較して、調整モデルでは5年以内に妊娠する確率が45%高く(HR:1.45、95%CI:1.34-1.58)、妊娠に至る期間も早い傾向がありました(中央値19カ月(95%CI:18-20)対36カ月(95%CI:32-41))。自然妊娠群でも同様の結果が観察されました。自然妊娠群(重度女性因子除く)では、総前進運動精子数の閾値は2,000万でした。
精液パラメータの連続値のグラフを視覚的に評価すると、WHOの基準値や我々が算出した閾値と比較して、精子濃度、総精子数、前進運動率、総前進運動精子数の値が高くなると、5年間の妊娠率と妊娠までの期間が一貫してプラトーになることがわかりました。総前進運動精子数については、1億〜1億5,000万までの値が、曲線の視覚的評価において、より良い妊娠率および妊娠までの期間と関連していました。今回の結果から、男性因子不妊症と診断されたカップルでは、総前進運動精子数の閾値を5,000万とすることで、妊娠までの期間を早期に推定するための予測力が最も高いことが示唆されました。
私見
人工授精、体外受精ともに妊娠率と相関した正常下限を示す論文が数多くあります。精子数が多い場合、どこまで妊娠率と相関するかを示したものは数多く報告がありませんでしたので、参考にしたいと思います。今回の結論としては以下の通りです。
①総前進運動精子数5,000万が妊娠しやすさを示す閾値である。
②主要女性因子がなければ自然妊娠の総前進運動精子数2,000万が閾値である。
③総前進運動精子数が低いグループでも、約30-50%のカップルが5年以内に妊娠している。
④総前進運動精子数が1億〜1億5,000万までは妊娠率増加、妊娠までの期間短縮につながるが、それ以降はプラトーとなる。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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