男性不妊

2021.07.24

男性年齢は体外受精の胚発生に影響を与えるの?(Hum Reprod. 2021)

はじめに

不妊の原因として女性の年齢ばかり指摘されてきましたが、最近では男性の高齢化も不妊原因であることが指摘されてきています。今まで議論がされづらかったのは夫婦の年齢が同年代であることが多く、女性年齢に男性年齢がマスクされてしまっていたからです。ただ、様々な切り口から男性高齢化の不妊への影響が研究されるようになってきました。
男性の高齢化は、テストステロンレベルの低下や、精液量の減少、運動精子数の減少、異常形態精子の増加など、精液の質の低下と関連することが知られています(Kidd, et al. 2001、Sartorius and Nieschlag.2010、Bertoncelli Tanaka el al. 2019)。男性の高齢化は通常の精液検査に加えて最近注目されている父親の精子DNAダメージ検査にも影響を与えることが報告されています(Wyrobek et al. 2006、Sharma et al.2015、Kaarouch et al. 2018)。
では、体外受精における胚発生には男性年齢は影響を与えるのでしょうか。
小規模報告ではありますが、2021年に報告された研究をご紹介させていただきます。

ポイント

男性の高齢化は、精液の質だけでなく体外受精における胚発生にも影響を与える可能性があります。高齢男性では3日目に8細胞まで到達する胚の割合が低くなることが報告されました。

引用文献

Jolien Van Opstal, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deaa256.

論文内容

父親と母親を妊娠前から出産まで追跡調査する縦断的なEpigenetic Legacy of Paternal Obesity(ELPO)研究の一部として行われました。
2015年4月から2017年9月までリクルートした87組のカップル(ベルギーのルーベン大学)の1,057個の受精胚を解析しました。精液検査、妊娠率、胚の特徴(割球数、対称性、断片化率)を記録しました。周期内での相関関係や、1組のカップルが複数の周期を行っていることを考慮して統計的モデリングを行いました。

結果

高齢男性は若年男性に比べてday3胚の8細胞まで到達する率が低いことがわかりました。オッズ比は0.960(95%CI:0.930-0.991、P=0.011)でした。この結果は、女性年齢や男女BMIを調整しても変わりませんでした。断片化率や対称性は、男性年齢とは関連しませんでした。
男性年齢が高くなると、3日目に8細胞に到達する割合が低くなります。

私見

卵子も精子も私たちの身体で作られる細胞ですから、それぞれの年齢が妊孕性に影響するというのは当然の印象を受けます。今回は3日目での割球数が少ないという結論でしたが、彼らの報告では対称性も断片化率も変わっておらず、予備実験では症例は少ないですが、4細胞から8細胞への発育スピードに影響を与えているのでは?と仮説を立てています。今回の検討では症例数も少なく、男性年齢が直接影響を与えているのか、男性の高齢化による生活習慣の変化が影響を与えているのかは結論付けられていません。

胚発育が不良な場合は、精液検査が正常であっても男性不妊外来に積極的に受診を促すような時代が来るのかもしれません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 受精

# 受精卵の評価

# 精子DNA損傷検査

# 精液検査

# 年齢素因

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

ICSIで受精しないのはなぜ?精子の関与についての最新報告 (Hum Reprod, 2025)

2025.12.27

精子DNA損傷とART成績:“しきい値”を見極めるために必要なこと (Andrology, 2025)

2025.11.22

顕微授精と遺伝的背景:AZFc欠失と重複の最新研究 (Andrology, 2025)

2025.11.15

男性不妊とがんリスクの意外な接点 (Human Reprod Open、2025)

2025.08.23

細菌性腟症毒素が精子能力に与える影響(Hum Reprod. 2025)

2025.08.01

男性不妊の人気記事

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.02.10

射精から時間が経つと精液検査所見は悪化する?

2025.11.01

5年で総運動精子数が半減? 男性不妊における経時的変化 (Andrology, 2025)

日本から男性妊活用抗酸化サプリメントの最新エビデンスです 

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25