はじめに
「男性不妊があるとどのような児への影響があるの?」と質問されることがあります。
男性不妊の有無に関わらず、顕微授精を行うことにより児へ与える影響(男性不妊を伴わない場合は30%、伴う場合は42%、自然妊娠に比べて障がい児のリスク上昇を警鐘)については以前もコラムにまとめています(当院ブログ:
体外受精によるbirth defects(Hum Reprod. 2021:その1)
体外受精によるbirth defects(Hum Reprod. 2021:その2)
この報告は、体外受精全体が児へ与える影響について記載されていて、男性不妊に特化されていませんでしたので、今回、顕微授精で妊娠した子供の長期転帰に関する文献をレビューした論文をご紹介させていただきます。
ポイント
顕微授精(ICSI)により妊娠した子供の長期転帰について、認知機能の発達、神経発達障害、成長・代謝、男性不妊の遺伝という4つの観点が重要視されています。
引用文献
Alice R Rumbold, et al. Fertil Steril. 2019. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2019.05.006.
論文内容
男性不妊と顕微授精の影響について検証しました。全ての研究において症例数が少なく、質の高い研究は限られており、より大規模な研究での検証が必要ですが、現在のところ①認知機能の発達、②神経発達障害、③成長と代謝、④男性不妊の遺伝、にフォーカスを当てた研究がほとんどです。
①認知機能の発達 顕微授精で妊娠した子供の認知機能については、かなりの数の研究がなされていますが、質の高い研究は限られています。重症男性因子は、幼児期の認知機能の発達には影響しないと考えられています。思春期や成人期の認知機能についての研究は不足しており、サンプル数も少ないため、今後も長期的に検証し続ける必要があると考えられています。
②神経発達障害 いくつかの大規模な研究では、顕微授精で妊娠した子供の精神遅滞や自閉症のリスクがわずかに増加することが報告されています。しかしながら、こちらについても矛盾した結果が数多く存在し、条件を整えて検証し続ける必要があるとされています。
③成長と代謝 報告はまだ多くありませんが、顕微授精で出産した子供は出生後の成長が促進され、特に女児では脂肪率が上昇するリスクがあるとされています。ただし、早産や子宮内胎児発育不全を原因とする出生後のキャッチアップが要因かもしれません。
④男性不妊の遺伝 顕微授精で出産した男児の生殖機能を調べた数少ない研究では、精子形成障害があるとされていますが、原因不明な部分が多く残っています。Y染色体微小欠失の子供への伝播を示す報告もありますが、一貫性は見られていません。その他の遺伝的原因の可能性、遺伝子に依存しないエピジェネティック異常の可能性、不妊カップルの環境因子や治療因子に関係する可能性などについても注目され、研究が進められています。
私見
男性不妊が児へ与える影響については、まだ新しい分野であり結論は出ていません。すべての事象について、影響するとしないとの相反する論文が存在し、追跡研究を見守る必要があります。ただし個人的には、児を授かることを目的として不妊の原因を検索し必要な治療を行うわけですから、医療者も患者様も次の世代への責任を意識しながら治療にあたるべきだと考えています。
「余分な医療介入をしないに越したことはない」ということは定期的に意識し、私たちが提供する医療方針を成績と照らし合わせながら評価するようにしています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。