不育症

2021.09.27

PCOSの妊娠継続を阻害する要因は?(Front Endocrinol (Lausanne). 2020)

はじめに

PCOSは生殖年齢女性の5~10%に認められる代表的な内分泌疾患で、排卵障害、インスリン抵抗性、高アンドロゲン血症を特徴とします。PCOS女性は非PCOS女性と比べて流産リスクが高いとされています。しかし、ARTを受けるPCOS女性において何が流産リスクを高めているのかは確立しておらず、とくに肥満・過体重の影響については危険因子とする報告と影響しないとする報告が混在しています。今回、ARTを受けるPCOS女性の自然流産の危険因子を検討したシステマティックレビュー・メタアナリシスをご紹介いたします。

ポイント

体外受精を受けるPCOS女性では、BMI高値とインスリン抵抗性が流産リスク上昇と関連し、年齢・胚の染色体異常・高アンドロゲン血症は関連しませんでした。

引用文献

Yi-Fei Sun, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2020 Dec 3;11:592495. doi: 10.3389/fendo.2020.592495.

論文内容

ARTを受けるPCOS患者における自然流産の危険因子を評価することを目的としたシステマティックレビュー・メタアナリシスです。
Embase、PubMed、Web of Science、Cochrane Libraryを検索対象とし、1970年1月から2020年3月までに発表された観察研究を言語制限なく収集しました。対象はロッテルダム基準で診断されたPCOS女性に限定し、同基準を用いていない研究、反復流産の既往を有する研究、ART以外を目的とした薬剤投与(メトホルミンを含む)や介入を伴う研究、症例報告・総説は除外されました。検討因子はBMI、年齢、インスリン抵抗性(IR)、高アンドロゲン血症、染色体異常であり、主要評価項目は流産と出生率です。連続変数は平均差(MD)と95%CI、二値変数はORと95%CIで解析し、均質なデータには固定効果モデル、異質性のあるデータにはランダム効果モデルを用いました。研究の質はNewcastle-Ottawa Scaleで、出版バイアスはファンネルプロットで評価しています。

結果

検索された1,836件(本文中では1,843件と記載)の論文のうち22件が適格と判断され、計11,182人が解析対象となりました。内訳は後方視的コホート研究17件、前方視的コホート研究3件、症例対照研究2件で、14件が中国、5件が米国、残り3件が日本・トルコ・オーストラリアからの報告でした。
BMI高値(OR = 1.48, 95% CI [1.32, 1.67]、MD = 1.35, 95% CI [0.58, 2.12])およびインスリン抵抗性(MD = 0.32, 95% CI [0.15, 0.49])は自然流産リスク増加と関連していました。
一方、高年齢(OR = 0.29, 95% CI [0.29, 0.44]、MD = 2.01, 95% CI [0.04, 4.18])、胚の染色体異常(OR = 0.75, 95% CI [0.31, 1.77])、高アンドロゲン血症(MD = 0.10, 95% CI [-0.02, 0.22])は関連しませんでした。BMIのサブグループ解析では、過体重と肥満との間で有意差は認められませんでした(OR = 1.34, 95% CI [0.97, 1.85])。
BMIについては診断基準別(中国基準:OR = 1.53, 95% CI [1.02, 2.30]、WHO基準:OR = 1.49, 95% CI [1.32, 1.69])、人種別(中国人:OR = 1.52, 95% CI [1.26, 1.82]、非中国人:OR = 1.48, 95% CI [1.27, 1.73])のいずれのサブグループ解析も全体解析と一致しました。
染色体異常は解析手法により結果が乖離し、G分染法では有意な増加を認めず(OR = 0.54, 95% CI [0.35, 0.85])、SNPアレイ解析では危険因子とされました(OR = 1.86, 95% CI [1.23, 2.82])。基礎LH(bLH)は関連しませんでした(MD = -0.15, 95% CI [-0.89, 0.60])。
交絡調整済みORを報告した2研究の統合では、BMI(OR = 1.27, 95% CI [1.17, 1.38])のみが危険因子であり、年齢(OR = 1.06, 95% CI [0.95, 1.19])、bLH(OR = 1.01, 95% CI [0.95, 1.08])、基礎テストステロン(OR = 1.10, 95% CI [0.70, 1.73])は無関係でした。

私見

PCOS女性の流産で胚の染色体異常が主因ではなさそうだという点は、複数の報告が一致しつつあるところです。そうであれば、原因は染色体以外の胚側因子(細胞質など)か、子宮内膜を含む母体側の着床因子ということになります。本論文はその母体側因子として体重とインスリン抵抗性を強く疑った内容だと思います。
機序面では、BMI高値がSHBG低下と芳香化亢進を介して遊離テストステロン・エストラジオールを上昇させ、高インスリン血症がこれを増悪させる流れが引用されています。内膜側では、Bellver J, et al. Fertil Steril. 2011が着床期内膜のトランスクリプトーム変化を、Zhai J, et al. Biol Reprod. 2012が肥満PCOS女性でのGLUT4発現低下とメトホルミンによる改善を、Chang EM, et al. Clin Endocrinol (Oxf). 2013がインスリン抵抗性では胚発育は保たれるが着床率が低下することを報告しており、「胚ではなく内膜」という推論を支えます。
メトホルミンの流産予防効果は見解が分かれ、ASRM(Fertil Steril. 2017)は妊娠成立時に中止する使用は流産率に影響しない(Grade B)、妊娠中の継続を推奨する根拠は不十分(Grade C)としています。
年齢についてはLi J, et al. Front Endocrinol. 2019が、PCOS女性では加齢による治療成績低下が緩やかであると報告しており、卵巣予備能が保たれることの反映と考えられます。本解析で年齢が保護因子と出た背景にはこの影響だと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 流産、死産

# インスリン抵抗性、HOMA

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

# 体重、BMI

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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