体外受精

2020.01.14

GnRHaとhCGトリガーでの正倍数性胚率は同等(Fertil Steril. 2019)

はじめに

体外受精において、最終的な卵子成熟を誘導するためのトリガー薬として、GnRHアゴニスト(GnRHa)とhCGが使用されています。GnRHaは下垂体に働きかけて内因性のLHとFSHの分泌を促進するため、より生理的とされています。一方、hCGはLH受容体に直接結合して作用しますが、半減期が長く、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いことが知られています。OHSSのリスクが高い症例や全胚凍結サイクルでのGnRHaの使用が増加していますが、トリガー薬の選択が正倍数性に影響するかは明らかではありませんでした。今回、着床前遺伝学的検査(PGT-A)を用いて両者の正倍数性率を比較した研究をご紹介いたします。 

ポイント

GnRHaトリガーとhCGトリガーは、年齢を補正すると正倍数性率に有意差はなく、両者とも同等の染色体正常胚を得ることができます。 

引用文献

Thorne J, et al. Fertil Steril. 2019 Aug;112(2):258-265. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.03.040. 

論文内容

GnRHaまたはhCGでトリガーしたIVF周期における正常胚率の違いを評価することを目的とした後方視的コホート研究です。2013年1月から2018年2月の期間に、大学関連施設でPGT-Aを実施した366名の患者による539IVF周期、2,335個の胚盤胞生検を対象としました。 
卵巣刺激プロトコルには、リュープロライドアセテート下方制御、マイクロフレアリュープロライドアセテート、およびGnRHアンタゴニストが使用されました。患者の年齢、BMI、AMH値、3日目FSH、胞状卵胞数、および過去の刺激反応に基づいて開始用量を決定しました。主席卵胞が17-18mmに達した時点で、hCG(Pregnyl、Novarel)またはGnRHa(リュープロライドアセテート)でトリガーを行いました。トリガー35時間後に経腟超音波ガイド下採卵を実施し、ガードナー分類3BB以上の良好胚盤胞に対して栄養外胚葉生検を行い、その後胚を凍結保存しました。PGT-Aは配列比較ゲノムハイブリダイゼーション法またはNGSで実施しました。

結果

GnRHaトリガー群は203周期、hCGトリガー群は336周期でした。GnRHaトリガー群では年齢が若く(36.3±0.3歳 vs. 38.6±0.2歳、P<0.01)、BMIが低く(25.3±0.3 vs. 26.4±0.3、P=0.03)、AMH値が高く(4.4±0.3 vs. 2.0±0.2 ng/mL、P<0.01)、より多くの卵子を回収し(19.3±0.7 vs. 11.5±0.3個、P<0.01)、より多くの胚盤胞を生検しました(6.2±0.3 vs. 3.4±0.1個、P<0.01)。生検胚当たりの正倍数性率はGnRHaトリガー群で高い傾向を示しましたが(37.8%±2.1% vs. 30.3%±1.8%、P=0.01)、多変量回帰分析で潜在的交絡因子を制御すると両群間に差は認められませんでした。また、回収卵子当たりの正倍数性率も全体的に有意差はありませんでした(GnRHa vs. hCG:11.9%±0.9% vs. 9.8%±0.7%、P=0.06)。年齢層別解析でも両群間に有意差は認められませんでした。 

私見

本研究は、GnRHaトリガーとhCGトリガーで得られる正常胚率に差がないことを示した初めての報告です。これまでGnRHaトリガーは主にOHSS予防の観点から注目されてきましたが、胚の質に関する懸念も一部にありました。 
GnRHaトリガーの生理的優位性を支持する報告として、Sismanoglu A, et al. J Assist Reprod Genet, 2009では、同一ドナーでの交差試験でGnRHaとhCGトリガーの卵子成熟率と胚発育が同等であることが示されています。また、Bodri D, et al. Fertil Steril, 2009の大規模後方視的研究では、卵子ドナー周期において凍結融解胚移植の妊娠率がGnRHaとhCGで同等であることが報告されています。 
一方で、Kolibianakis EM, et al. Hum Reprod, 2005やHumaidan P, et al. Hum Reprod, 2005の初期報告では、GnRHaトリガーでの新鮮胚移植において妊娠率の低下が懸念されていました。しかし、これは黄体機能不全によるものであり、適切な黄体サポートや凍結融解胚移植により解決されることが明らかになっています。 
本研究の意義は、PGT-Aという客観的指標を用いて正倍数性を評価し、両トリガー間で差がないことを証明した点にあります。これにより、OHSS高リスク患者、全胚凍結周期、卵子提供周期など、適応のある症例でGnRHaトリガーを安心して使用できる根拠が示されました。特に近年増加している全胚凍結戦略において、GnRHaトリガーは安全性と有効性を両立させる優れた選択肢といえるでしょう。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 排卵誘発、トリガー

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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