一般不妊

2022.01.26

排卵がある女性に対するクロミフェンの有用性(Fertil Steril. 2020)

はじめに

クロミフェンクエン酸塩(クロミッド®)は排卵がある原因不明不妊の女性には妊娠率・出生率向上に寄与するのでしょうか。原因不明不妊のEBMにもとづいた不妊治療ガイドライン(アメリカ生殖医学会2020)から抜粋してご紹介いたします。 

ポイント

排卵のある原因不明不妊の女性に対して、クロミフェンはタイミング指導では妊娠率・出生率の改善が見込めませんが、人工授精では有用性が認められています。ただし多胎率の管理が必要となってきます。 

引用文献

Fertil Steril. 2020;113(2):305-22. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.014. 

論文内容

ほとんどの論文ではクロミフェンによるタイミング指導は成績に寄与せず、人工授精では寄与するというのが一般的な見解です。
クロミフェン自体は排卵をさせるにはとても有用な卵巣刺激剤です。ただし、クロミフェンのもつ抗エストロゲン作用による内膜の菲薄化や頸管粘液の減少が起こった場合はタイミング指導・自己妊活にとって不利益もありそうです。その他にも、クロミフェン周期では、エストラジオールとプロゲステロン値には異常はないですが、黄体期前期に有意な子宮血流の減少が認められたという報告などがあり、ホルモン値では判断できない相対的な黄体機能不全が起き、内膜変化に影響を与えている可能性を示唆した報告もあります(Hsu CC, et al. Obstet Gynecol. 1995、Bonhoff AJ, et al. Hum Reprod. 1996)。
2020年の原因不明不妊の治療法についてのクロミフェンに対する見解です。 
引用文献は最後に載せておきます。 
 

:クロミフェンを用いたタイミング法は妊娠・出産率改善が見込めないため、原因不明不妊症の治療法として推奨されません。
原因不明不妊症のタイミング治療にてクロミフェンの有用性を下記のRCTとシステマティックレビューで評価しています。
ほとんどの研究では、クロミフェンでは他の治療と比べて妊娠率に差がないことが示されています。1980年代のRCT(low quality)では、黄体期のhCG投与の有無に関わらないクロミフェン卵巣刺激もしくは自然周期でのタイミング治療にてクロミフェン群の妊娠率が高いとしている論文が唯一ありますが、統計的に有意でもなく分娩率までも追っていません(4周期の妊娠数 クロミフェン群:10/76、自然周期群:4/72、P=0.16)。クロミフェンとレトロゾールのタイミング法を比較したRCTでは、臨床妊娠率や多胎妊娠のリスクに差がないと判断されています(臨床妊娠率:レトロゾール11.1%、クロミフェン12.1%、P=NS;多胎妊娠率:レトロゾール8.3%、クロミフェン9.1%、P=NS)。 

:クロミフェンを用いた人工授精は妊娠・出産率改善が見込まれるため、原因不明不妊症の治療法として推奨されるが、多胎率の管理が重要とされています。
原因不明不妊症の人工授精治療にてクロミフェンの有用性を数多くのRCTとシステマティックレビューで評価していますので妊娠率・出生率に寄与するのは間違いなさそうです。それでもクロミフェンを用いた人工授精で妊娠しない場合、体外受精を奨めるのかレトロゾール、低用量ゴナドトロピン療法を勧めるのかはいつも悩むところです。治療成績に差がないことから卵巣刺激のそれぞれの作用機序も違いますし薬剤を切り替えた人工授精を行うのも選択肢かもしれませんね。 

②-1:クロミフェンを用いた人工授精とレトロゾールを用いた人工授精の妊娠率の比較です。4つのRCTと2つのシステマティックレビューでは妊娠率に差は認めていません。 

②-2:7つのRCTでは、低用量ゴナドトロピン(1日150IU未満)を用いた人工授精とクロミフェンを用いた人工授精を比較しています。低用量ゴナドトロピンの方が妊娠率が高いという報告もありますが、ほとんどの論文では妊娠率・出生率に差がないという結論になっています。 

私見

私たち生殖医療従事者がクロミフェンを原因不明不妊に使っているのは、人工授精・体外受精の卵巣刺激を見据えた場合や、過去の妊娠既往、そして何より患者様に情報提供のうえ、妊娠率に強く寄与しないと思っていても治療選択をされた場合となります。医療者側は患者様に有益であるという判断のもとに薬の処方を必ず行っています。ただ、説明不足のため、内服を希望していないのに処方されたと不信感をもつ患者様が数多くいるのも実情です。
双方にとって納得いく治療が行われていくことが一番ですね。 

①:Reference
Bhattacharya S. BMJ 2008
Agarwal S. Indian J Med Res 2004
Badawy A. Acta Obstet Gynecol Scand 2009
Fisch P. Fertil Steril 1989
Eskew AM. Obstet Gynecol 2019
Hughes E.  Cochrane Database Syst Rev 2010
Liu A. J Obstet Gynaecol Res 2014 

②-1:Reference
Diamond MP. N Engl J Med 2015
Al-Fozan H. Fertil Steril 2004
Badawy A. Fertil Steril 2009
Liu A. J Obstet Gynaecol Res 2014
Eskew AM. Obstet Gynecol 2019
Bayar U. Fertil Steril 2006 

②-2:Reference
Huang S. Fertil Steril 2018
Balasch J. Hum Reprod 1994
Danhof NA. Hum Reprod 2018
Dankert T. Hum Reprod 2007
Ecochard R. Fertil Steril 2000
Erdem M. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2015
Peeraer K.  Hum Reprod 2015

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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