はじめに
女性においてBMIが妊孕能に影響することは広く知られていますが、男性のBMIが妊孕能や精液所見に及ぼす影響についての情報は限られています。女性では高BMI値を示す患者は通常、インスリン抵抗性を有し、多嚢胞性卵巣症候群を伴い、妊孕能予後が不良であることが知られています。生殖補助医療を受ける過体重の不妊患者は、より多くのゴナドトロピン投与を必要とし、成熟卵子の獲得数が少なく、受精胚の質が低く、流産率が高いとされています。BMIと精液所見(精子の量と質)、特に精子クロマチン完全性との関係を示した報告をご紹介いたします。
ポイント
BMIが25 kg/m²を超える男性では、射出精液中のクロマチン完全性を有する正常運動精子の数が減少しています。
引用文献
Kort HI, et al. J Androl. 2006 May-Jun;27(3):450-2. doi: 10.2164/jandrol.05124.
論文内容
日常的な精液検査を受けた正常健康男性(年齢範囲26-45歳、平均34.6歳)520名を対象としたレトロスペクティブ研究です。各男性から単一の精液サンプルを採取し、採取日に身長(m)と体重(kg)を記録しました。BMIをkg/m²として計算し、患者を公表されているBMI範囲に従って以下のように分類しました:正常(20-24 kg/m²)、過体重(25-30 kg/m²)、肥満(30 kg/m²以上)。精液は37℃で60分間液化させ、精子濃度と運動率はWHOガイドラインに従って評価しました。精子形態評価はTygerberg「strict」基準システムにより実施し、各検体について200個の細胞を評価しました。正常運動精子(NMS)の総数は、volume×concentration×%motility×%morphologyとして計算されました。精子クロマチン完全性はフローサイトメトリーベースの精子クロマチン構造アッセイ(SCSA)により決定し、DNA断片化指数(DFI)として報告しました。データは線形回帰分析、分散分析(ANOVA)、およびTukey検定による多重ペアワイズ比較により解析されました。
結果
BMI全体の平均(±SEM)は27.5(±0.49) kg/m²であり、全体群は過体重に分類されました。線形回帰分析[NMS = (49.028) – (1.534×BMI)]により、BMIとNMSの間に有意(P<0.05)な負の関係が認められました。ANOVAにより、3つの異なるBMI群間でNMSの総数に有意差(P<0.05)が認められました。BMI群ごとのNMSは以下の通りでした:正常18.6×10⁶個、過体重3.6×10⁶個、肥満0.7×10⁶個。すべてのペアワイズ多重比較(Tukey検定)において有意差(P<0.05)が認められました。DFI全体の平均(±SEM)は24.7%(±2.57%)でした。線形回帰分析[DFI = (1.145×BMI) – 6.079]により、BMIとDFIの間に有意(P<0.05)な正の関係が認められました。BMI群ごとのDFIは以下の通りでした:正常19.9%(±1.96%)、過体重25.8%(±2.23%)、肥満27.0%(±3.16%)。正常BMI群と過体重群および肥満群の間でDFIに有意差(P<0.05)が認められました。過体重群と肥満群の間では精子DFIに有意差は認められませんでした。
私見
女性患者において過剰な体脂肪の量と分布が妊孕能に関連することは十分に認識されています(Wass et al, Hum Reprod. 1997)。
男性も同様です。恥骨上部および大腿内側領域の高脂肪蓄積は、精子産生やクロマチン完全性の変化をもたらす可能性があります。過剰な体脂肪に加えて、遺伝的および内分泌学的因子も、観察された精子の質と量の違いに寄与している可能性があります。
不妊には向き合う夫婦は一緒になって生活習慣の改善に努めるべきだと考えています。
夫婦の体重(BMI)は妊娠しやすさ(不妊)に影響する?(Fertil Steril. 2020)
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。