はじめに
調理済み食品の摂取頻度は世界的に増加していますが、健康への影響は依然として不明です。妊娠中の加工食品・飲料の摂取と妊娠転帰の関連をエコチル調査から検討した報告です。
ポイント
妊婦の調理済み食品(市販の弁当または冷凍食品)の摂取頻度と死産との関連がありました。一方、レトルト食品、インスタント食品、缶詰食品などの調理済み食品の摂取頻度と死産との関連は認められませんでした。また、妊婦のカフェイン摂取頻度が、死産・早産・SGA・低出生体重と関連を認めました。
引用文献
Hazuki Tamada, et al. Nutrients. 2022. DOI: 10.3390/nu14040895
論文内容
エコチル調査(JECS)104,102名の子ども(胎児または胚を含む)を対象とし、加工食品摂取と妊娠転帰の関連を推定するために、ロジスティック回帰分析を行いました。
母親年齢、体格、喫煙歴、飲酒歴、学歴、収入、体外受精、妊娠既往、周産期合併症、労働環境、エネルギー摂取量などの影響を調整して解析を行っています。
結果
今回の解析対象となる94,062名の親子における死産、早産、SGA、低出生体重の頻度はそれぞれ0.9%(842)、4.8%(4,547)、7.0%(6,599)、8.1%(7,601)でした。
週1回未満の摂取頻度だった女性はそれぞれ、調理済み食品(58.8%)、冷凍食品(62.9%)、レトルト食品(72.9%)、コンビニエンスストア(74.8%)、缶詰(87.0%)でした。缶やペットボトルの飲料、コーヒー豆や茶葉から抽出した飲料を「ほとんど飲まない(週7回以下)」と回答した女性は60%、52.5%でした。
死産の発生率は、調理済み食品を中程度(週1~2回)と多い(週3~7回以上)摂取している群で高くなりました(aOR=2.054、95%CI:1.442-2.926、q=0.002、aOR=2.632、95%CI:1.507-4.597、q=0.007)。冷凍食品の摂取頻度も同様に高くなりました(aOR=2.225、95%CI:1.679-2.949、q<0.001、aOR=2.170、95%CI:1.418-3.322、q=0.005)。
飲料(缶またはペットボトル)の中程度(週7~13回)および高程度(週14回以上)の消費を報告した群(aOR=3.484、95%CI:2.611-4.649、q<0.001;aOR=2.930、95%CI:1.837-4.673、q<0.001)では、死産の発生率は、消費を報告しなかった群に比べ高くなっていました。カフェイン飲料群の中程度と高い消費を報告した群では、死産の発生率が増加していました(aOR=3.752、95%CI:2.923-4.816、q<0.001;aOR=1.754、95%CI:1.192-2.581、q=0.021)。カフェイン飲料を飲む女性はSGA児の発生率が、缶やペットボトルの飲料、カフェイン飲料を飲む女性は低出生体重児の発生率が増加していました。
私見
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、2010年度から約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。
以前、同グループは死産率が高い女性ではプラスチックや樹脂を作るため、他の化学品と共に使われる前駆物質のビスフェノールA(BPA)の体内濃度が高いことを報告していますが、否定的な意見もあります。それ以外にもポリ塩化ビニルなどのプラスチックやゴムの可塑剤として繁用されているフタル酸ビス(DEHP)も内分泌攪乱物質の可能性があります。これらの物質が妊娠中に影響を与える直接のメカニズムはまだまだわかっておらず、追加調査が必要と思います。ディスカッションでも触れられていますが、調理済み食品(市販の弁当または冷凍食品)は特に電子レンジで加熱することにより食品への内分泌攪乱物質の高濃度の移行が高まるのではないかとしています。
主成分分析をながめると、調理済み食品の摂取頻度が高い群と缶やペットボトルの飲料、カフェイン飲料を高頻度に摂取する群が全く違うクラスターになっていたところです。影響を与えるメカニズムが違う可能性があります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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