体外受精

2022.07.25

AMH値により初回治療方針(全胚凍結・新鮮胚移植)はどう伝える?( J Assist Reprod Genet. 2022)

はじめに

移植の際、「新鮮胚移植もできるけれど、一旦凍結してから別周期に戻そうかな?」と悩むことが多々あります。どちらでも対応可能な時に、私たちは患者様に選択を委ねるわけですが、そのなかでも医師の話し方により無意識に誘導していることも多くあるのではないかと感じています。今回、比較的、新鮮胚移植を薦める施設でAMH別に振り返ってみたら生殖医療成績がどうだったかという報告を読みましたのでご紹介いたします。このような報告は生殖医療の大きな発展には寄与しませんが、医療者としての意思決定の上では大事な内容です。 

ポイント

採卵個数20個以下の症例において、AMH 7ng/ml以上では全胚凍結群の方が初回胚移植の成績が良好でした。医師の裁量が成績に関与している可能性が示唆され、データを振り返ることの重要性が再確認されました。 

引用文献

Kai-Lun Hu, et al. J Assist Reprod Genet. 2022 Jul 23. doi: 10.1007/s10815-022-02564-3. 

論文内容

採卵個数20個以下の症例に限り、新鮮胚移植か凍結融解胚移植かどちらの選択が生児出生につながっているか振り返った時、AMH 7ng/ml以上では全胚凍結群の方が初回胚移植の成績が良い傾向にありました。 

2017年から2019年までに不妊症で凍結全胚移植と新鮮胚移植の両方の適応となったカップルを調査した後方視的コホート研究です。フリーズオール戦略の絶対適応(PGT、IVM、ドナー卵子、採卵決定時プロゲステロン値が6nmol/l(1.89ng/ml相当)以上、採卵回収卵子数20個以上)の女性は除外しました。卵巣刺激はロング法、もしくはHMGアンタゴニスト法をおこないuHCG 5,000-10,000単位で排卵誘発を実施しました。ロジスティック回帰を用いて、全胚凍結・新鮮胚移植の治療効果がAMH値によって変化するかどうかを非線形交互作用も考慮し評価しました。主要評価項目は、初回胚移植後の出生率としました。 

結果

13,503名の女性が新鮮胚移植を受け、2,247名の女性が全胚凍結となりました。出生率は、新鮮胚移植群に比べ全胚凍結後凍結融解胚移植群でわずかに高くなりました(35% vs. 33%)。血清AMH値と、生児出産に対する全胚凍結・新鮮胚移植の治療効果に非線形相互作用がありました(P = 0.0161)。全胚凍結戦略による生児出産への効果は、AMH値が高い女性(> 7 ng/ml)で有効でした。 

AMH値(ng/ml)   0-3.5 (N=10,717)3.6-7.0 (N=3,711)  7.1-10.5 (N=861) >10.5 (N=461) P valuea 
女性年齢 33.5 (4.9) 31.0 (3.9) 30.5 (4.0) 29.9 (3.4) <0.001 
胚盤胞移植率 1,066 (10%) 503 (14%) 147 (17%) 87 (19%) <0.001 
単一胚移植率 2,198 (21%) 673 (18%) 180 (21%) 103 (22%) 0.11 
新鮮胚移植率 9,549 (89%) 3,015 (81%) 644 (75%) 295 (64%) <0.001 
臨床妊娠率 4,165 (39%) 1,775 (48%) 407 (48%) 210 (46%) <0.001 
出生率 3,392 (32%) 1,494 (40%) 327 (38%) 162 (35%) <0.001 
多胎率 854 (8%) 406 (11%) 85 (10%) 44 (10%) <0.001 

私見

この研究では、採卵個数20個以下の場合、85%が新鮮胚移植を選んでいることになります。この結果をみると、迷ったら全胚凍結戦略がよいのかもしれませんね。 
今回の結果はトリガー時のプロゲステロン値でも補正しています。成績の微妙な差は、医師の裁量(受精胚数が少ないから初期胚でとりあえず戻そう、受精胚数が多いから胚盤胞まで持っていこうなど)が意外と成績に関与していることを示しているかなと思って読んでいました。 
医師の判断は本当に大事ですね。そしてデータを振り返ることの大事さも感じます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 凍結受精卵

# 卵巣予備能、AMH

# 費用対効果

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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