はじめに
子宮内膜ポリープは、「大きければ取りましょう!小さければ経過観察ですね。」と言っていた時期もありますが、最近では慢性子宮内膜炎との関連も指摘されていて、慢性子宮内膜炎の治療も兼ねて小さくても切除が好ましいという流れになってきています。反面、子宮鏡診断が過剰に異常所見と取ってしまいがちになり、判断を迷うことが多々あります。
今回、the Global Community of Hysteroscopy Guidelines Committeeが6名の専門家から出した推奨事項をご紹介します。2020年5月までの文献をベースに作成されていますので、最近のエビデンスもアップデートされています。生殖年齢以外の内容も含まれますので、こちらは割愛させていただきます。
ポイント
子宮内膜ポリープの診断は子宮鏡検査が好ましく、切除術は安全に実施可能です。体外受精前の偶発的ポリープ切除の有用性は結論が出ていませんが、慢性子宮内膜炎との関連を考慮し、症例ごとに適切な治療法とタイミングを選択することが重要です。
引用文献
Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2021 May;260:70-77. doi: 10.1016/j.ejogrb.2021.03.017.
Salvatore Giovanni Vitale,et al.
論文内容
推奨事項
- 経腟超音波検査は、生殖年齢女性で子宮内膜ポリープを疑ううえで最初に選択される画像診断法で、カラードップラー、3D検査、造影剤を使用すれば精度は高まる。(推奨度B)
- 子宮内膜ポリープの診断精度は子宮鏡検査が好ましい。(推奨度B)
- 子宮内膜ポリープの診断と管理には、子宮内膜全面掻爬術(D&C)は避けることが好ましい。(推奨度A)
- 子宮内膜ポリープは子宮内膜受容能を変化させ、胚の着床率を低下させる可能性がある。(推奨度C)
- 子宮鏡下子宮内膜ポリープ切除術は、子宮内癒着形成のリスクがほとんどなく安全な手術である。(推奨度B)
- 子宮内膜ポリープ切除は、その後の体外受精生殖成績を低下させることはないが、偶発的に見つかった内膜ポリープを切除することが好ましいかどうかは結論が出ていない。(推奨度B)
- 費用対効果を考えるとoffice surgeryが好ましい。(推奨度B)
- 子宮内膜ポリープを見つけた場合、悪性腫瘍のリスクがあるため、ポリープの病理検査は必須である(推奨度B)。
- 子宮内膜局所病変の診断が不正確であるため、子宮内膜全面掻爬術(D&C)は避けるべきである(推奨度A)。
リスク因子
- 年齢上昇、高血圧、高エストロゲン状態(肥満、PCOS、エストロゲン分泌性性腺間質腫瘍および慢性肝疾患)、タモキシフェン使用
- 月経が続く限り増加
- 現在までのところ、ホルモン療法と子宮内膜ポリープの相関に関してはさまざまな意見があり結論が出ていない。
私見
体外受精前に子宮鏡検査を受けた無症状の不妊症女性の子宮内膜ポリープの有病率は、6~32%と報告されています。
- Fatemi HM, et al. Hum Reprod 2010;25 (8):1959–65.
- Karayalcin R, et al. Reprod Biomed Online 2010;20(5):689–93.
- Hinckley MD, et al. JSLS 2004;8(2):103–7.
ガイドラインにも書かれていますが、国々のガイドラインに応じて検査・治療を実施すべきとされています。様々な角度から不妊原因を総合的に判断し、同じ手技を行うにしても「いつ行うか」、「どのように行うか」が大事になってくると思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。