はじめに
原因不明不妊は不妊カップルの約30%を占める診断で、通常の検査では明らかな原因が特定できない状態です。治療法として卵巣刺激+人工授精(OS-IUI)、そして体外受精が一般的に行われますが、その有効性と安全性について十分な検証が必要とされています。今回、アメリカ生殖医学会が1968年から2019年までの88件の研究を基に作成した、原因不明不妊治療のエビデンスに基づくガイドラインをご紹介いたします。
ポイント
原因不明不妊の最適な初期治療は、経口薬(クロミフェンまたはレトロゾール)による卵巣刺激と人工授精を3-4サイクル行い、妊娠しなかった場合は体外受精へステップアップすることです。
引用文献
Fertil Steril. 2020;113(2):305-22. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.014.
論文内容
原因不明不妊カップルに対する治療の有効性と安全性に関するエビデンスに基づく推奨事項を臨床医に提供することを目的とした研究です。ASRMが実施した文献検索では、1968年から2019年に発表されたシステマティックレビュー、メタアナリシス、無作為化比較試験、前向き・後向き比較観察研究が含まれました。ASRM実践委員会と専門家チームが利用可能なエビデンスと非公式な合意を用いて、エビデンスに基づくガイドライン推奨事項を作成しました。
結果
文献検索により、このガイドラインのエビデンスベースを構築するための88件の関連研究が特定されました。主要な推奨事項として以下が示されました。
- 自然周期による人工授精は、卵巣刺激剤を用いた人工授精ほど効果がなく期待できる効果が得られないため勧められない(推奨レベルA)。2. クロミフェンを用いたタイミングは、期待できる効果が得られないため勧められない(推奨レベルB)。
- クロミフェンを用いたタイミングは、期待できる効果が得られないため勧められない(推奨レベルB)。
- レトロゾールを用いたタイミングは、期待できる効果が得られないため勧められない(推奨レベルB)。
- hMG/FSH製剤を用いたタイミングは、クロミフェンやレトロゾールを用いたタイミングと差がなく多胎リスクも高いため勧められない(推奨レベルB)。
- クロミフェンを用いた人工授精は推奨される(推奨レベルA)。
- レトロゾールを用いた人工授精は推奨される(推奨レベルA)。
- クロミフェンもしくはレトロゾール+hMG/FSH製剤を用いた人工授精は、多胎妊娠リスク増加のため勧められない(推奨レベルB)。
- 低用量hMG/FSH製剤を用いた人工授精は、複雑で費用も高く勧められない(推奨レベルB)。
- 通常量hMG/FSH製剤を用いた人工授精は、多胎妊娠リスク増加のため勧められない(推奨レベルA)。
- クロミフェンもしくはレトロゾールを用いた人工授精はhCG(排卵誘発剤)注射後0〜36時間に人工授精1回実施が推奨される(推奨レベルB)。
- クロミフェンもしくはレトロゾールを用いた人工授精は3〜4回実施し、妊娠しなければhMG/FSH製剤用いた人工授精より体外受精へのステップアップが、推奨される(推奨レベルB)。
私見
今回のASRMガイドラインは、原因不明不妊治療において非常に実践的な指針を提供しています。特に注目すべきは、ゴナドトロピン製剤を用いた人工授精の位置づけです。従来多くの施設で段階的治療として行われてきたゴナドトロピン+人工授精について、多胎妊娠リスクの高さから推奨しないという明確な立場を示しています。
先行研究では、Diamond MP, et al. (2015)のFASTT試験において、クロミフェン治療後の選択肢としてゴナドトロピン+人工授精と体外受精を比較し、体外受精の方が妊娠までの期間が短く費用対効果も良好であることが示されています。また、Reindollar RH, et al. (2010)の研究でも同様の結果が報告されており、今回のガイドラインはこれらのエビデンスと一致しています。
一方で、自然周期人工授精についてはBhattacharya S, et al. (2008)の大規模RCTで期待管理との有意差がないことが示されていますが、臨床現場では患者の希望や心理的要因も考慮する必要があり、完全に除外することは現実的ではない場合もあります。
今回のガイドラインは、治療の標準化と多胎妊娠リスクの軽減に重要な指針を提供していますが、個々の患者の年齢、不妊期間、希望家族数などを総合的に考慮した個別化医療の重要性も改めて認識する必要があります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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