Q:精索静脈瘤があると精巣がんになりやすくなるのでしょうか?
A:関連性はなさそうです。
今回ご紹介する論文
思春期の精索静脈瘤と若年成人期の精巣がん
Varicocoele in adolescence and testicular cancer in young adulthood
Guy Verhovsky G et al. Andrology. 2022 Nov;10(8):1575-1580.
不妊症における男性因子として、最も多く認められる疾患のひとつが精索静脈瘤です。精索静脈瘤では、腹部からの静脈血が逆流することにより、精巣周囲の血流がうっ滞し、精巣の温度が上昇します。こうした環境の変化が、精液所見の悪化や男性の生殖機能低下につながる主なメカニズムと考えられています。
精索静脈瘤は、精巣に対して軽度のテストステロン低下を来す可能性が指摘されていますが、通常は全身の健康に重大な影響を及ぼす疾患ではなく、過度に心配する必要はありません。
一方で、精巣が本来存在すべき陰嚢内ではなく、鼠径部や腹腔内にとどまる停留精巣では、精巣癌の発症リスクが高くなることが知られています。その要因の一つとして、精巣が体内にあることによる温度上昇が関与していると考えられています。
本研究は、陰嚢温度の上昇という環境変化が、男性不妊の専門医が特に注意を払っている疾患の一つである精巣癌の発症と関連する可能性について検討したものです。精巣の温度という視点から、男性生殖機能と疾患との関係を改めて考える上で、示唆に富む内容であるといえます。
研究の要旨
背景は、以下のようになっています。陰嚢内の温度上昇は、若年の男性に最も多い悪性腫瘍である精巣癌の危険因子であることが示唆されています。精索静脈瘤は陰嚢内の温度上昇と関連していますが、精巣癌と関連しているかどうかは今のところ不明です。
この研究の目的は、思春期における精索静脈瘤と成人後の精巣癌の発生率との関連性の可能性を検討することです。
研究のデザイン、セッティングおよび対象となった症例は以下のようになっています。この研究は全国規模の集団を対象としたコホート研究です。1967年から2012年にかけて、義務兵役前の健康診断の一環として静脈瘤のスクリーニングを受けたイスラエル男性青年1,521,661人(平均年齢17.5±0.4歳)を対象としたものです。平均の追跡期間は18±4.2年でした。精巣癌の診断は、イスラエル国立癌登録への記録から確認されました。生存率分析も行いました。
結果は次のようになっていました。合計53,210人の青年が兵役前に精索静脈瘤グレード2および3(触知可能な精索静脈瘤)と診断されました。追跡期間中に精巣癌と診断された男性1,988人(全集団の0.13%)のうち、54人(0.1%)が兵役前のチェックで精索静脈瘤が確認されていたが、1,934人(99.9%)は精索静脈瘤を有していませんでした(p=0.213)。精巣癌診断時年齢およびセミノーマと非セミノーマの分布は、青年期に精索静脈瘤があった者となかった者との間で有意差はありませんでした。社会人口学的因子で調整した後の多変量解析では、精索静脈瘤と精巣癌との関連性はありませんでした[オッズ比=0.816(CI:0.615-1.083)]。
結論として、青年期の精索静脈瘤は、若年成人後の精巣癌と関連しないことが明らかになりました。
全体の要約:精索静脈瘤と精巣癌の理論的な関連について、この大規模な調査を行いました。その結果、若年成人期の精索静脈瘤と後年の精巣癌との間に関連は認められませんでした。
筆者の意見と考察
男性不妊外来を受診される方には、可能な限り陰嚢部の視診・触診に加え、陰嚢超音波検査を行い、精索静脈瘤や精巣腫瘍の有無を確認しています。精索静脈瘤を有する方には、通常は全身の健康に大きな影響を及ぼす疾患ではないことを説明してきましたが、本研究の結果から、精巣癌のリスク上昇とは関連しないことが確認され、この点については改めて安心できる結果であったと感じています。
一方で、イスラエルでは兵役前の16~19歳という若年期に精索静脈瘤の有無を確認していること、さらにすべての癌が全国的なデータベースに登録・管理されている体制は非常に印象的です。実際、私の外来でも、疼痛を伴う精索静脈瘤により業務に集中できず、特に危険物を取り扱う仕事に支障を来している方を経験することがあります。そのような背景を考えると、兵役前などの段階で精索静脈瘤を確認する意義は一定程度あるのかもしれません。
また、16~19歳男性の3.4%に触知可能な精索静脈瘤が認められたという本研究の知見は、若年男性における精索静脈瘤の頻度を理解するうえで、非常に重要な情報であると考えられます。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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