はじめに
TSH 2.5mIU/L以上の女性では不妊の女性の場合は補正して治療をすることを推奨する流れが長くありました。最近では、TSH 2.5mIU/Lカットオフはあまりにも厳しすぎるのではないかという意見が数多くあり、最近の2つのメタアナリシスでもTSH 2.5mIU/Lカットオフでは体外受精の治療成績に差がありませんでした(Zhang Y, et al. Reprod Sci 2022;29: 2440–51., Zhao T, et al. Reprod Biol Endocrinol 2018;16:111.)。
妊活前の一般集団では妊娠のしやすさとTSH 2.5mIU/Lカットオフで差がつくかどうか、住民無料検診の結果をもって調査した報告をご紹介いたします。
ポイント
プレコンセプション検診で、TSH値を測定して0.50-5.59mIU/Lの場合であれば、TSH 2.5mIU/L以上であっても、妊娠のしにくさとは関係なさそうです。不妊期間や過去の流産率などをふまえて方針決定していくことが必要そうです。(追記)最近の流れではTSH 4mIU/L前半をカットオフとすることが多い傾向があります(2026/1)
引用文献
Yanmin Zhong, et al. Fertil Steril. 2022 Nov 17;S0015-0282(22)01975-6. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.10.025.
論文紹介
2018年1月1日から2018年12月31日までに中国の二地区住民に向けた無料プレコンセプション検診事業でTSH測定(fT4、fT3は測定せず)を行った女性を対象としたコホート研究です。評価項目は妊娠までの期間としました。
結果
3,110組の無料プレコンセプション検診を受け、研究対象としたカップルから連絡がつかなかったり、適格基準を満たさなかったカップルを除外し1,478組で解析を行いました。2.5-98.5パーセンタイルに含まれる妊娠前TSH 0.50-5.59mIU/Lの1,401組の妊娠予後を追跡しました。968組(69.1%)が最初の6ヶ月以内に、1,082組(77.2%)が12ヶ月以内に妊娠成立していました。TSH推奨カットオフ値2.5mIU/Lで二分すると、TSH高値カテゴリー(2.50-5.59mIU/L)の12ヶ月以内に妊娠割合は低値カテゴリー(0.50-2.49mIU/L)と同じであり(79.0% vs. 78.1%)、粗妊娠オッズ比は0.99(95% CI: 0.87-1.13)でした。
TSH値と出産オッズ比の非線形な関連も統計的には差がありませんでした。
私見
Plowdenらの過去の報告でも同様に、妊活前のTSH 2.5mIU/L以上(上限5.0mIU/L)は妊娠しにくさとは関係がないとしています(Plowden TC, et al. J Clin Endocrinol Metab 2016;101:2358–65.)。今回の非線形モデルの解析(論文のfig.2)をみていると有意差はありませんが、TSH 4mIU/L以上になると妊娠しにくい方に移行していっているのがわかります。過去の流産既往などを総合的に判断し治療基準を個別に説明していくことが現段階では好ましいのかもしれません。
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文責:川井清考(WFC group CEO)
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