体外受精

2022.12.06

ERA調整下個別化胚移植は成績改善を認めない(Fertil Steril. 2022)

はじめに

ERAは2022年現在、国内では先進医療として認められています。検査を用いた胚移植を実施する場合、2ヶ月近く胚移植が遅れること、費用が15万円前後かかることから、適切な症例に実施することが必要と考えています。世界各国で行われている検査ですが、現在までのメタアナリシスの評価はどうなのでしょうか。最近、F&S Reviews 2022にもメタアナリシスが公表されていますが、選ぶ論文によって評価が変わることがありますので、複数のメタアナリシスが出てくるのは複数の観点から評価できるため良いことだと思っています。

ポイント

Sara E Arianが行ったメタアナリシスの結果、ERA調整下個別化胚移植は妊娠率向上につながりませんでした。Huy Phuong Tranのメタアナリシスと同様の結果となりました。一部の患者が恩恵を得る可能性があるものの、大多数の女性においては成績向上に関係しない介入であることがわかりました。

引用文献

Sara E Arian, et al. Fertil Steril. 2022. Nov 19;S0015-0282(22)02039-8. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.11.012.

論文内容

PubMed、Web of Science、Embaseを2022年2月15日まで検索しました。
凍結融解胚移植周期を受けた患者の妊娠率を評価した比較研究のみを対象とし、ERAを事前に実施した場合としなかった場合を比較しました。主要評価項目は出生率および/または継続妊娠率、副次評価項目は着床率、生化学妊娠率、臨床的妊娠率、流産率としました。
サブグループ解析は、胚移植不成功回数に応じたERA調整下個別化胚移植の妊娠率を調査しました(2回以下の胚移植不成功回数 vs. 2回超の胚移植不成功回数)。

結果

8つの研究(2,784名、ERA実施831名と非ERA実施1,953名)を対象群としました。米国2報告、スペイン1報告、日本1報告、カナダ1報告、中国1報告、ラトビア1報告、多国籍1報告でした。ERA実施群における出生率または継続妊娠率は、非ERA実施群と比較して差はなく(OR 1.38, 95% CI 0.79-2.41, P 0.25, I2 83.0%)、胚移植不成功回数に基づくサブグループ分析においても差は認められませんでした。着床率、生化学妊娠率、臨床妊娠率、流産率もERA実施群と非ERA実施群で同等でした。

  1. 出生率および/または継続妊娠率
    • 全体
      5試験:OR 1.38, 95% CI 0.79-2.41, P 0.25, I2 83.0%
    • 2回以下の胚移植不成功回数
      3研究:OR 1.09, 95% CI 0.72-1.66, P 0.68, I2 0.0%
    • 2回の胚移植不成功回数
      2研究:OR 1.81, 95% CI 0.36-8.98, p=0.47, I2 96.0%)
  2. 臨床妊娠率
    7試験:OR 1.14、95% CI 0.70-1.85、P 0.60、I2 80.0%
  3. 生化学妊娠
    3試験:OR 0.86, 95% CI 0.45-1.63, P 0.65, I2 0.0%
  4. 着床率
    2試験:OR 1.31, 95% CI 0.92-1.87, P 0.13, I2 0.0%
  5. 流産率
    5試験:OR 1.03, 95% CI 0.46-2.32, P 0.94, I2 71.0%

私見

着床不全の原因は受精胚の質と子宮内膜胚受容能のずれだけではなく、他の免疫因子・非免疫因子など様々あります。子宮マイクロバイオーム、炎症性インターロイキン、TNF-αの過剰産生、ナチュラルキラー細胞の機能異常などです。
当院でも、さまざまな着床不全原因精査を行える状況を整えていますが、ほとんどが自費検査になってしまいますし、一つ一つのエビデンスレベルが高いわけではありませんので、総合的に判断していくことが大事だと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 総説、RCT、メタアナリシス

# 子宮内膜胚受容能検査

# 反復着床不全(RIF)

# ホルモン調整周期下胚移植

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

反復着床不全に対する36治療法の有効性比較(J Assist Reprod Genet. 2023)

2025.08.30

反復着床不全に対する子宮内注入療法比較

2025.08.29

反復着床不全に対する子宮内hCG注入療法の有効性(BMC Pregnancy Childbirth. 2024)

2025.08.27

反復着床不全の定義の多様性(Hum Reprod Open. 2025)

2025.08.26

反復着床不全:胚と子宮内膜の相互作用(RBMO. 2025)

2025.08.25

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

修正排卵周期凍結融解胚移植におけるトリガー時卵胞径と生殖医療成績(Hum Reprod Open. 2025)

単一胚移植・人工授精後の妊娠判定時のHCGの特徴(Hum Reprod. 2024)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

2025.10.29

妊活における 痩せ薬(GLP-1受容体作動薬)(Fertil Steril. 2024)

2025.10.29

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

modified Ferriman-Gallwey法による多毛症スコア(Fertil Steril. 2010)

2024.08.26