はじめに
「帝王切開は、その後の妊娠成績に影響を与えるのか」については、様々な議論があります。帝王切開は着床率を低下させるという報告(帝王切開は胚移植の結果に影響を与えるの?(J Huazhong Univ Sci Technolog Med Sci. 2017))、帝王切開後、子宮腔内に分泌物(ICF: intracavitary fluid)が溜まっていなければ、着床を低下させないという報告(帝王切開既往は子宮内腔液がたまっていなければ胚移植成績に影響を与づらい(J Assist Reprod Genet. 2022))を、コラムでも取り上げています。
今回、帝王切開時の切開部の凹みがあると生殖医療成績に影響を与えるかどうかを比較検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
帝王切開部の目立った凹みは、その後の妊孕性に有害な影響を与える可能性が高く、着床率には10%近い低下を認めます。流産率への影響は増加する報告もありますが、今回の検討では、症例によって増加を認めない群もありました。
引用文献
Wen Yao, et al. Fertil Steril. 2022 Dec 6;S0015-0282(22)02056-8. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.12.001.
論文内容
2015年1月から2019年12月に2,874回の帝王切開既往のある女性2,449名を対象とした中国の生殖医療単施設で行われた後ろ向きコホート研究です。 帝王切開時の切開部の凹み(niche)は3D超音波で2mmより欠損、または子宮鏡で観察できるものと判断しました。初回胚移植後の生殖医療成績を1年後に電話インタビューにより集計しました。GEE解析、ロジスティック回帰分析、傾向スコアマッチングを適用し、子宮nicheと生殖医療成績の関連を調査しました。評価項目は出生率とし、副次項としてhCG陽性率、臨床妊娠率、着床率、流産率、子宮外妊娠率としました。結果 子宮奇形、染色体異常、胚移植不可、卵子提供、追跡不能などの症例を除外し、2,231人2,515周期を対象としました。Nicheなし女性と比較して、Niche有り女性は、出生率(18.99% vs. 31.51%, aOR:0.51, 95%CI:0.34-0.77)、hCG陽性率(34.08% vs. 46.40%, aOR:0.61, 95%CI: 0.43-0.87)、臨床妊娠率(29.05% vs. 42.25%, aOR: 0.57, 95% CI: 0.39-0.82)、着床率(25.87% vs. 36.95%, aOR: 0.53, 95% CI: 0.38-0.76) が低下していました。感度分析において、niche群は流産率を7.28%~18.22%増加させたが、そのすべてが統計的に有意にはなりませんでした。
今回の症例は
- 胚移植時期 分割期胚:__Niche有り女性__4.6%(62/179) Nicheなし女性34.2%(799/2336) 胚盤胞期胚:__Niche有り女性__65.4%(117/179) Nicheなし女性65.8%(1537/2336)
- 新鮮/凍結受精胚 新鮮胚:__Niche有り女性__55.9%(100/179) Nicheなし女性59.2%(1383/2336) 凍結融解胚:__Niche有り女性__44.1%(79/179) Nicheなし女性40.8%(953/2336)
私見
帝王切開部の凹み(istmocele:帝王切開瘢痕部にある深さ1mm以上の形状と定義)があると卵巣刺激中にICFが発生するリスクが40%程度あるため、胚のattachment、apposition が低下する可能性が上昇すると書きましたが、nicheとistmoceleはほぼ同義です。 目立った帝王切開部の凹みがあると着床率が低下するのは間違いなさそうですね。流産率はまだまだ賛否が分かれます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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