
はじめに
生殖補助医療における胚移植において、子宮内膜の厚さ(EMT)は重要な評価指標とされています。子宮内膜厚と出生率の関連性が報告されていますが、薄い子宮内膜を有する患者の出生率低下に関しては意見が分かれています。今回、SARTデータを用いて、新鮮胚移植および凍結融解胚移植における子宮内膜厚と出生率の関連を詳細に検討した大規模研究をご紹介いたします。
ポイント
子宮内膜厚の増加は12mm程度まで出生率の向上と関連し、この効果は新鮮胚移植、凍結融解胚移植(PGTあり・なし)すべてで認められました。ただし、出生率に差がないという報告も複数あるので総合的な判断が必要となります。
引用文献
Julian A Gingold, et al. Fertil Steril. 2025 Sep;124(3):478-486. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.04.032.
論文内容
胚移植周期における子宮内膜厚(EMT)が出生率に与える影響を評価することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。2016年から2018年にSARTに報告された胚移植を受けたすべての女性(ドナー治療除く)を対象としました。新鮮胚移植周期ではトリガー日の子宮内膜厚を、凍結融解胚移植周期では胚移植に最も近い日の子宮内膜厚を測定しました。主要評価項目は、8-11.9mmを基準範囲とした各子宮内膜厚における出生率の相対リスクとしました。年齢、BMI、喫煙、不妊原因、AMH、FSH値について調整し、新鮮胚移植、PGTなし凍結融解胚移植、PGTあり凍結融解胚移植に分けて解析しました。
結果
182,784名261,266周期を対象としました。子宮内膜厚8mm未満の患者は、やや年齢が高く、BMIが低く、既往流産、卵巣予備能低下、多嚢胞性卵巣症候群以外の排卵障害の頻度が高い一方、男性因子不妊や原因不明不妊の頻度は低い傾向でした。すべての新鮮・凍結融解胚移植を合わせた場合、出生率は子宮内膜厚の増加とともに向上し、6mm未満で31.2%、6-6.9mmで34.4%、7-7.9mmで40.8%、8-11.9mmで45.0%、12-14.9mmで46.4%、15mm以上で46.2%でした。流産率や生化学的流産率は全群で8.6-11.1%と大きな差がなく、薄い内膜での成績低下は主に着床不全によるものでした。PGTなし新鮮周期では、薄い子宮内膜は8-11.9mmの基準範囲と比較して出生率の低下と関連していました(aRR:6mm未満0.59[95%CI 0.48-0.72]、6-6.9mm 0.66[0.58-0.74]、7-7.9mm 0.79[0.74-0.84])。一方、12-14.9mmおよび15mm以上の厚さは出生率の向上と関連していました(aRR:1.12[1.09-1.15]および1.16[1.12-1.22])。PGTなし凍結融解周期でも類似していましたが、より軽度の効果が認められ(aRR:6mm未満0.87[0.77-0.99]、6-6.9mm 0.79[0.73-0.85]、7-7.9mm 0.94[0.91-0.97]、12-14.9mm 1.06[1.03-1.08]、15mm以上1.04[0.98-1.1])、PGTあり凍結融解周期でも同様の傾向が示されました(aRR:6mm未満0.67[0.59-0.77]、6-6.9mm 0.80[0.76-0.85]、7-7.9mm 0.89[0.87-0.92]、12-14.9mm 1.07[1.05-1.1]、15mm以上1.06[1.00-1.11])。
私見
EMT 8mm閾値を超えて12mm程度まで出生率の向上につながるという知見です。これは最近のカナダの研究(Mahutte N, et al. Fertil Steril 2022)とも一致する結果で、新鮮胚移植では10-11.9mm、凍結融解胚移植では7-9.9mmまでの効果を報告していました。
また、PGTを用いた周期でも同様の関連性が認められたことは重要です。これまでPGT周期での子宮内膜厚の影響を検討した研究は限られており(Gingold JA, et al. Fertil Steril 2015; Haas J, et al. Fertil Steril 2019)、本研究の大規模データによる検証は臨床的に価値があります。
本研究では内膜調整の具体的方法は詳述されていないのが残念なところです。薄い内膜での成績低下は継続妊娠率低下(流産率増加)ではなく、主に着床不全によることが示されました。
内膜菲薄化症例で内膜を熱くするのは至難の業ですが、内膜調整など工夫をして厚くする努力をしたうえで胚移植を検討するとういのがゴールなのだと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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