男性不妊

2024.08.10

男性不妊難治症例の紹介–当院からの症例報告です! 

研究の紹介

Successful pregnancy and delivery following microdissection testicular sperm extraction and intracytoplasmic sperm injection for non-obstructive azoospermia after microsurgical varicocelectomy: A case report and review of the literature 

精索静脈瘤手術後に無精子症となり、顕微鏡下精巣内精子採取術および顕微授精にて生児獲得した一例:
症例報告と文献レビュー 

Kamo H, Komiya A, Ota K, Hiraoka K, Honma K, Kawai K. J Obstet Gynaecol Res. 2024 Jul 23. doi: 10.1111/jog.16023. PMID: 39041378

はじめに 

当院で経験した重症造精機能障害の患者さんの治療経過をまとめた症例報告が日本産科婦人科学会の機関誌The Journal of Obstetrics and Gynaecology Researchにアクセプトされ、Early Viewでみることができるようになりました。 
今回はその内容についてご紹介いたします。 
亀田IVFクリニック幕張の加茂先生が執筆した英文のレポートです。 

抄録 

一般に、精索静脈瘤に対する外科的治療は生殖機能の改善につながると考えられています。しかしながら、今回われわれの施設では、極少精子症(cryptozoospermia)を呈した男性不妊症症例で、触知可能な左精索静脈瘤に対して顕微鏡下精索静脈瘤手術を実施し、術後に無精子症となったまれな症例を経験しました。 

 この症例は、精索静脈瘤手術から1年以上経過しても、無精子症から回復しませんでした。その後、顕微鏡下精巣内精子精手術(micro-TESE)を行い、運動精子を凍結保存することができました。凍結精子を融解して用いた顕微授精にて胚盤胞を一つ凍結保存することができました。このカップルは、最終的に胚移植後に妊娠に至り、39週5日で男児を獲得することができました。 

 重度の精巣機能不全の場合、精索静脈瘤手術では術後に精液所見が悪化し、無精子症に至る可能性があります。したがって、術前の精子凍結保存や、その後のTESEの可能性も考慮しておくことが重要です。 

図.本症例の経過のまとめ 

本報告の症例では、男性パートナーはもともと極小精子症で、ひだり精索静脈瘤III度でした。顕微鏡下精索静脈瘤手術を行いましたが術後に無精子症となりました。そこで、術前に凍結保存した精子を用いた顕微授精を行いましたが受精卵が得られず、micro-TESEで運動精子を得て顕微授精-胚移植にて生児獲得に至りました。 

表. 精索静脈瘤手術後に無精子症を来した症例のこれまでの報告 

著者 
(年) 
報告形態 
(症例数) 
静脈瘤の 
グレード 
手術方法 結果 
1.Milone M他. (2014) 症例報告 (1) III度 腹腔鏡下手術 無精子症* 
2.Addar AM他 (2021) 後ろ向き研究 (45) I度(7例) 
II度(19例) 
III度(19例) 
顕微鏡下手術 4例が無精子症** 

無精子症に至った症例の治療経過:
*報告1. 術前の凍結精子を用いた顕微授精-胚移植にて妊娠。 
**報告2. 術前の精子濃度5万/mL未満の4症例(うち2症例が極少精子症)が術後無精子症にいたり、そのうち2症例で術後6ヶ月以上の経過で精液中に精子が出現。 

筆者の意見

私の意見は、抄録の最後のパラグラフの、「重度の精巣機能不全の場合、精索静脈瘤手術では術後に精液所見が悪化し、無精子症に至る可能性があります。したがって、術前の精子凍結保存や、その後のTESEの可能性も考慮しておくことが重要です。」と同様です。 

もともと精索静脈瘤手術で精液検査所見が改善する症例は6-8割程度とされております。つまり、2-4割は改善しなかったり悪化したりする可能性があるわけです。これは男性不妊の原因や精液検査所見悪化の原因が精索静脈瘤以外にもある可能性がある、あるいは手術によるダメージがあったり手術が間に合わないかもしれないからです。 
今回の症例でも精液所見が術後悪化することも考えて精子凍結をしていましたが、術前の射出精液の凍結精子を使用した顕微授精では受精卵を得ることができず、妊娠に至りませんでした。また、初めから精巣内精子採取術をした方がよかったかもしれませんが、当初の話し合いの結果では選択されませんでした。 
精索静脈瘤術後に無精子症になってしまいましたが、精巣内精子採取術で得た精子を用いた顕微授精がうまくいきましたので、精索静脈瘤手術により精子の質が改善した可能性があると考えています。 
精索静脈瘤術後どのくらいの期間改善を期待して経過を見るかという課題があり、通常は3-6ヶ月程度が一つの目安です。しかし、精索静脈瘤術後に無精子症になってしまった例はすでに何例か報告されて、その中には6ヶ月以上の経過観察で射出精子を認めた症例も報告されています。とても悩ましい問題ですが、無精子症をきたす原因が精索静脈瘤や手術以外にもあって、それは治療できていないことを考えるとあまり長く経過をみるのは良くないと考えています。 

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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