男性不妊

2024.03.25

精索静脈瘤手術では精液の酸化ストレスも改善!

研究の紹介

精索静脈瘤手術により、精液の酸化ストレスレベルの指標としての酸化還元電位を改善する: MiOXSYSシステムを用いた前向き臨床試験の結果
Varicocele Repair Improves Static Oxidation Reduction Potential as a Measure of Seminal Oxidative Stress Levels in Infertile Men: A Prospective Clinical Trial Using the MiOXSYS System.

Kavoussi PK, et al. Urology. 2022 Jul;165:193-197. PMID: 35461918.

精索静脈瘤が不妊の男性因子になる原因はいまだ明確ではない部分もありますが、もっとも重要な機序の一つに酸化ストレスがあります。精液の酸化ストレスの度合いを調べる装置にMiOXSYS(ナカメディカル)があり、日本でも多くの施設で導入されてきているようです。当院でも精液検査のオプションとして活用しており、男性不妊外来受診の際にはほとんどの方にこの検査を受けていただいています。
今回の研究は、精索静脈瘤の手術を行った結果、精液の酸化ストレス(酸化還元電位)が改善しましたということを報告したものです。

研究の要旨

精索静脈瘤の修復がMiOXSYSシステムで測定した酸化ストレス(OS)を改善するかどうかを評価することがこの研究の目的です。
触知可能な精索静脈瘤(grade2-3)を有し、過去12ヵ月以内に挙児経験のない18歳以上の男性患者を対象とした前向き臨床試験としてこの研究が実施されました。顕微鏡下精索静脈瘤手術(低位結紮術)の術前と術後3ヵ月目に通常の精液検査とともにMiOXSYSシステムを用いて精液のOS測定を行いました。一部の症例では精子DNA断片化(SDF)も測定しました。術後の精液検査のパラメータ、OS(酸化還元電位, sORP)、SDFの変化を術前の値と比較しました。SDFは精子クロマチン分散化試験(halosperm;当院でも採用しています)にて評価しました。
49名の結果が得られました。OSは、精液パラメータとの負の相関を示しました。精液検査のパラメータとOSは、精索静脈瘤手術の前に比べ、術後に有意に改善しました(OSは低下)。
組み入れられた49名のうち、22名は術前後にSDFも測定されていました。この22名でも、OSと精液パラメータとの間に統計学的に有意な負の相関が認められました。また、精子前進運動率、SDFおよびsORPは、精索静脈瘤手術の術前と比較して、術後3ヵ月で、有意に改善していました (表)。
まとめますと、不妊男性に対する精索静脈瘤手術は、MiOXSYSシステムによって測定されるsORPを改善したということになります。

表 手術前後の精液検査所見、酸化還元電位(sORP)、精子DNA断片化率(DFI)の比較

精液検査の
各パラメータ
精索静脈瘤手術前
(平均値)
精索静脈瘤手術後
3ヶ月 (平均値)
P値95% 信頼区間
sORP (mV/conc.)3.561.290.001-3.78 〜 -0.75
DFI(精子DNA断片化率)32.3918.360.001-18.07 〜 -9.99
精子前進運動率 (%)17.1925.590.012.79 〜 14.03
総精子運動率(%)43.6751.32有意差なし-1.15 〜 13.28
精子正常形態率 (%)4.764.86有意差なし-0.92 〜 1.19
精子濃度(106 /mL)34.2138.98有意差なし-5.04 〜 14.59
総精子数 (106100.03103.89有意差なし-36.73 〜 44.38

筆者の意見

酸化還元電位はARTの治療予測という面ではまだまだ評価が定まっていないと思われますが、男性不妊外来受診のきっかけになったり、酸化還元電位が高い場合は、抗酸化剤サプリメントを勧めるといった活用をしています。ですので、泌尿器科としては重宝しています。
表に示したように、精索静脈瘤手術の結果を3ヶ月後でみた場合、通常の精液検査のパラメータの精子数や精子濃度よりも、酸化還元電位のほうがはっきりとした変化を示していて鋭敏のようです。したがいまして、手術の効果をみるツールのひとつとしては有用かと思われます。術後6ヶ月目の結果も見てみたいです。この研究は症例数が限定的ですので今後の追試の研究結果が待たれます。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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