一般不妊

2023.12.05

アジア諸国女性のAMH解析(Hum Reprod. 2023)

はじめに

アジア人女性は、同じAMH値であっても白人女性に比べて卵巣刺激後の回収卵子数が少ないことが報告されています。

Weghofer A. Fertil Steril 2011;96:S80–S81.
Kelly AG, et al. Fertil Steril 2017;108:e43.
Ko JKY, et al. J Ovarian Res 2021;14:175.

民族間のAMH分布については、白人女性と比較すると黒人およびヒスパニック系女性では低く、中国系女性も低い傾向にあることが報告されています。

Alexander M Kotlyar & David B Seifer. Front Endocrinol (Lausanne). 2021 Feb 9:11:593216.

今回紹介するのは、11カ国のアジア生殖医療センターにおける生殖年齢女性のAMHに影響を与える因子を調査した前向き研究です。

ポイント

女性年齢、民族性、肥満(BMI≥30)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が血清AMH値に影響を及ぼしました。PCOS診断の最適なカットオフ値は4.0ng/mLでした。

引用文献

Chii-Ruey Tzeng, et al. Hum Reprod. 2023 Jul 5;38(7):1368-1378. doi: 10.1093/humrep/dead081.

論文内容

2020年1月から2021年5月にかけて、4,613名の女性を対象に集団ベースの多施設・多民族前向きコホート研究が実施されました。対象は20~43歳の不妊女性で、除外基準は20歳未満または43歳以上、非アジア系民族、重要データの欠落などでした。台湾、中国、香港、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、タイ、ベトナム、シンガポールの11カ国の生殖医療センターを受診した女性を、中国人、日本人、韓国人、タイ人、ベトナム人、マレー人、インド人、インドネシア人に分類して解析しました。

結果

解析対象は4,556名でした。血清AMH(平均±SD, ng/mL)は以下のとおりです。

  • 全体:3.44±2.93
  • 30歳未満:4.58±3.16
  • 30–31歳:4.23±3.23
  • 32–33歳:3.90±3.06
  • 34–35歳:3.21±2.65
  • 36–37歳:2.74±2.44
  • 38–39歳:2.30±1.91
  • 40歳以上:1.67±2.00

AMH低下率は25〜33歳で約0.13ng/mL/年、33〜43歳で0.31ng/mL/年でした。
PCOS女性の割合が高かったのはインド人(18.6%)、マレー人(18.9%)、ベトナム人(17.7%)でした。
AMHに影響を与える因子として、年齢(P<0.001)、民族(P<0.001)、肥満(P=0.007)、PCOS(P<0.001)、子宮内膜症術後(P=0.01)が挙げられました。一方で、喫煙、GnRHアゴニストや経口避妊薬による前処置、血液サンプルの凍結融解、卵胞期または無作為サンプリングはAMH値に影響を及ぼしませんでした。
PCOS診断に対するAMH濃度の最適カットオフ値は4.0ng/mLで、感度71.7%、特異度75.8%(AUC = 0.81, 95%CI: 0.79–0.83; P<0.001)でした。

私見

ディスカッションには注目すべき内容が含まれていました。
AMHが高かったインド人女性・マレー人女性は、PCOS(18.6%・18.9%)および肥満(19.1%・42.9%)の割合が高いことに加え、若年集団(29.5±4.3歳・31.8±3.8歳)での解析であった点も特徴的でした。同様に、AMHが高いベトナム人女性も若年(31.5±4.3歳)、PCOS(17.7%)の割合は高い一方で、肥満割合は低値(1.4%)でした。
民族間のAMH多様性には、遺伝的背景、ライフスタイル、食事パターンなどが寄与していると考えられます。
今回のアジア人を対象とした解析では、若年層におけるAMH低下率は緩やかであり、高齢になるほど加速しました。一方、アメリカ人女性を対象にしたSeiferら(2011)の解析では、35歳までは平均して1年ごとに0.2ng/mL減少し、その後は0.1ng/mL減少しており、本研究とは異なる結果でした。民族差だけでなく、対象集団の年齢分布の違いなども影響している可能性があります。
なお、国内からはAMH研究の第一人者施設である浅田レディースクリニックも本研究に参加しています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

# 卵巣予備能、AMH

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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