治療予後・その他

2023.02.17

乳がん治療後妊娠の周産期予後と胎児への影響(J Clin Oncol. 2021)

はじめに

乳癌治療後の妊娠は、周産期予後や胎児に影響を及ぼす可能性があります。乳がん治療後に妊娠した場合の注意点などを聞かれることがありますので、2021年に報告された海外のシステマティックレビューをご紹介いたします。

ポイント

乳がん治療後の妊娠では、一般健康集団と比較して帝王切開率、低出生体重児率、早産率、SGA児率が有意に上昇するものの、先天性異常率や周産期合併症のリスク増加は認められませんでした。

引用文献

Matteo Lambertini, et al. Meta-Analysis J Clin Oncol. 2021 Oct 10;39(29):3293-3305. doi: 10.1200/JCO.21.00535.

論文内容

周産期結果
妊娠後の出生率:有意差なし OR (95% CI) 1.21 (0.48 to 3.03)
自然流産率:有意差なし OR (95% CI)  1.04 (0.86 to 1.26)
堕胎率:有意差なし OR (95% CI) 1.40 (0.71 to 2.76)
周産期合併症:Pre-eclampsia 有意差なし OR (95% CI) 1.03 (0.27 to 3.98)

分娩時結果
帝王切開率:上昇 OR (95% CI) 1.14 (1.04 to 1.25)
分娩後大量出血:有意差なし OR (95% CI) 0.88 (0.57 to 1.37)

出生児予後
低出生体重児率:上昇 OR (95% CI) 1.50 (1.31 to 1.73)
早産率:上昇 OR (95% CI) 1.45 (1.11 to 1.88)
SGA児率:上昇 OR (95% CI) 1.16 (1.01 to 1.33)
児の先天性異常率:有意差なし OR (95% CI) 1.21 (0.48 to 3.03)

乳がん治療後の妊娠患者を含む報告を系統的な文献レビューを実施し、乳がん治療後の妊娠の可能性、その周産期予後と胎児への影響を評価しました。ランダム効果モデルを用いて、プールされた相対リスク、オッズ比、ハザード比、95%CIを算出しました。

結果

6,462件の報告のうち、一般健康集団の女性8,093,401名と乳がん診断後の女性112,840名(妊娠7,505名)を含む39件の報告を抽出しました。乳がん治療後女性は、一般健康集団の女性と比較して、その後の妊娠の可能性が有意に低くなりました(相対リスク 0.40;95% CI 0.32~0.49)。帝王切開率(OR 1.14;95% CI 1.04~1.25)、低出生体重児率(OR 1.50;95% CI 1.31~1.73)、早産率(OR 1.45;95%CI 1.11~1.88)およびSGA児率 (OR 1.16; 95% CI 1.01〜1.33)は一般健康集団の女性と比較して、乳がん治療後女性(特に化学療法実施している場合)では有意に高くなりました。児の先天性異常率やその他の周産期予後のリスク増加は認めませんでした。
妊娠しなかった乳がん治療後女性と比較して、妊娠した女性は無病生存率(HR 0.66;95% CI 0.49~0.89)および全生存率(HR 0.56;95% CI 0.45~0.68)において良好な結果となりました。同様の結果は交絡因子で調整しても、患者・腫瘍の分類・治療特性・妊娠結果・妊娠のタイミングに関係なく観察されました。

私見

2024年12月に「小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 第2版」が発刊されました。2017年版の全面改訂版で、11領域をカバーし、国際的な報告を元にした最新のJSCO性腺毒性分類が採用されています。妊孕性温存療法の経済的支援制度とともに、小児・AYA世代がん患者の希望につながる重要なガイドラインです。最近は、そちらの文献を参考にして診療にあたっています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# がんと生殖医療

# 妊孕性温存

# 出生児予後

# 総説、RCT、メタアナリシス

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