
はじめに
早発卵巣不全(POI)は40歳未満で卵巣機能が停止する疾患で、従来考えられていたよりも高い有病率(3.5%)を示すことが明らかになりました。POIは妊孕性への影響だけでなく、骨健康、心血管系、認知機能、性機能、心理的健康に深刻な影響を与える複合的な疾患です。今回、ESHRE、ASRM、CRE-WHiRL、IMSの合同ガイドライングループがPOIの診断と管理に関する包括的なエビデンスベースガイドラインを発表しましたのでご紹介いたします。
ポイント
POIの診断基準が単回のFSH検査で可能となり、ホルモン補充療法は通常の閉経年齢まで継続することで死亡率・罹患率を低減できます。
引用文献
Panay N, et al. Hum Reprod Open. 2024;2024(4):hoae065. doi: 10.1093/hropen/hoae065.
論文内容
早発卵巣不全(POI)の診断と管理についての新しいガイドラインで、症状、診断、原因、続発症、治療について145の推奨事項を提供しました。
以前考えられていたよりも高いPOIの有病率(3.5%)を示しています。主要な推奨事項は以下の通りです:
診断について:
・医療従事者は月経不順や無月経を呈する女性にエストロゲン欠乏症状について質問すべき(GPP)
・40歳未満で無月経/月経不順またはエストロゲン欠乏症状のある女性でPOI診断を考慮•除外すべき(GPP)
・無月経または月経不順と生化学的確認に基づいてPOIを診断すべき(STRONG)
・診断基準として、少なくとも4ヶ月間の月経周期異常とFSH濃度>25 IU/lの上昇が必要(GPP)
・診断に不確実性がある場合、4-6週間後にFSH評価を再測定(GPP)
・AMHをPOIの一次診断検査として使用すべきではない(STRONG)
原因検索について:
・全ての非医原性POI女性に染色体分析検査を推奨(STRONG)
・全ての非医原性POI女性にFMR1変異(脆弱X症候群遺伝子)検査を推奨(STRONG)
・原因不明のPOI女性に21OH-Absスクリーニングを実施(STRONG)
・POI診断時にTSH測定により甲状腺機能を評価し、5年毎または症状出現時に再測定(STRONG)
生命予後について:
・POI女性にホルモン補充療法なしのPOIは主に心血管疾患による余命短縮と関連することを説明(STRONG)
・症状の有無に関わらず、罹患率・死亡率リスク減少のため通常の閉経年齢まで一次予防としてホルモン補充療法を推奨(STRONG)
妊孕性について:
自然妊娠 (STRONG):
・POI女性にPOIが自然妊娠の可能性を大幅に減少させることを説明
・非外科的POI女性に卵巣活動が起こる可能性があり、自然妊娠の機会と関連することを説明
・妊娠を望まない場合は避妊使用を助言
治療介入 (STRONG):
・卵巣機能回復と自然妊娠率を確実に増加させる治療がないことを説明
・卵子提供はPOI診断後の妊娠の確立された選択肢であることを説明
・姉妹からの卵子提供を検討する非医原性POI女性に、遺伝的リスク共有と卵巣刺激周期キャンセルの高リスクを説明
妊孕性保存 (CONDITIONAL/GPP):
・医原性POI原因について、治療前に妊孕性保存を検討可能 (CONDITIONAL)
・POIリスクのある女性と妊孕性保存について議論し、多くのPOI女性では卵胞プールが枯渇しているため妊孕性保存の機会がない (GPP)
産科リスクについて:
自然妊娠 (STRONG):
・特発性POIまたはほとんどの化学療法後の自然妊娠は一般女性より高い産科•新生児リスクを示さないことを安心させる
卵子提供妊娠 (STRONG):
・卵子提供妊娠は高リスクで適切な産科施設で管理すべき
特殊状況 (STRONG):
・子宮への放射線後の妊娠は産科合併症の高リスクで適切な産科施設で管理
・ターナー症候群女性の妊娠は産科•非産科合併症の高リスクで心臓専門医関与の適切な産科施設で管理
妊娠適性評価 (STRONG):
・POI疑いで卵子提供を受ける女性は卵子提供前にPOI病因調査を受ける
・アントラサイクリンおよび/または心臓放射線を受けた妊娠検討女性のケアに心臓専門医が関与
・ターナー症候群女性の妊娠計画前、特に卵子または受精胚提供を検討する場合、ターナー症候群女性管理専門の母体胎児医学専門医と心臓専門医による包括的心臓スクリーニングと適切なカウンセリングを推奨
・通常の出生前スクリーニングに加え、POI女性は妊娠前に心血管代謝と甲状腺機能評価を受ける
・一部の女性では妊娠が生命を脅かすほど高リスクで卵子提供妊娠が不適切と考えられる場合がある
私見
今回のガイドラインで特に注目すべき点は、診断基準の簡素化です。従来2回のFSH測定が必要とされていましたが、単回測定で診断可能となったことで、より迅速な診断と治療開始が期待できます。また、POIの有病率が3.5%と従来の推定値1%より大幅に高いことが示されたことは、この疾患が稀ではないことを意味し、臨床的認識の向上が必要です。
妊孕性に関して、これまで様々な治療法が試みられてきましたが、科学的に効果が証明された方法は存在しないのが現実です。一方で、非外科的POI患者では間欠的な卵巣機能回復により自然妊娠の可能性があることも併せて説明する必要があります。
産科リスクについては、自然妊娠では一般女性と同等リスクであることが示されており、これは患者にとって安心できる情報です。しかし、卵子提供妊娠では高リスク妊娠として管理が必要であり、適切な施設での管理と医療チームへの情報開示の重要性が強調されています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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